第5話:気弱な少女には敵わない

 テンションの上がりきっているインタビューちゃんに追いつき、グラウンドで活動している部を横目に2人で部室棟に向かって歩いていた。


「そういえば、具体的になにを聞くのかって考えてるのか?」


「とりあえず、その部の一番の魅力を聞きます」


人差し指をあげ質問に返答してきた


「他には?」


「そこからは行き当たりばったりです」


「それで大丈夫なのか?」


少し不安になった。


「インタビューの方法の1つとして、もともと考えていた質問の返答に対して興味深い回答が返ってきたら、その内容が元の質問からかけ離れていても問い詰めていくというものがあります」


得意げに答えた。


「つまり、牛乳について聞いたら派生してチーズの話に切り替わってそれのほうが面白いからそっちをメインに変更するって感じか?」


「そのとおり!理解が早くて助かります。今回はそれを利用したインタビューということです」


確かにそれは面白そうだ。


しかしこれには欠点がある。それは質問をその場で考えないといけないため、質問が途切れる可能性があるということだ。


「どうかしましたか?」


下を向いて歩いていた俺の顔を下から覗き込んできた。


急なことだったので動揺してしまった。


「あ、いや…その、面白そうなんですけど、難しそうだなって思いまして」


「さっくん、敬語に戻ってますよ」


「あ、悪い」


「面白い人ですね。大丈夫ですよ、私に任せてください!」


クスクス笑いながら話した。


インタビューのことは全然分からないし、自信がありそうだったので、インタビューちゃんに任せることにした。


⭐︎⭐︎⭐︎


部室棟は3階建となっており大きさは教室のある校舎とほとんど同じだ、窓からは何か分からない木々や花が咲いているのが見えた。


部室棟に到着し、さっそくインタビューに取りかかろうとする。


「とりあえず、部室にいる部活にお話を聞きましょうか。今はまだ活動中なので他の所で練習している部活もありますし」


「いきなり行って大丈夫なのか?」


「本当はアポをとった方がいいんですけど、急を要するので仕方ありません。突撃インタビューです!」


そう言うと、手前の扉から適当にドアを叩き出した。


「すみません!どなたかいらっしゃいますか?」


そんな感じでやってくのか。


なかなか骨が折れそうだと思った。


そんなことを考えている間にも、インタビューちゃんはすごいペースで進めいていく。


「やっぱりこの時間運動部はどこもいませんね。あきらめて文化部に行きましょう」


「そうだな、部活が終わったぐらいにまた戻ってくるか」


そう言うと運動部のあった場所を一気にとばし、文化部の方へ向かう。


「そういや、時間は大丈夫か?うちは部活多いし全部周るのは無理そうだけど」


現在時刻は17:30を指している。


全部に聞き回るのは不可能だろう。


「全部は無理なので部員の多い部活を優先しようと思っています」


そう言いながら早歩きで歩を進める。


さっきまでの頭の悪そうな彼女はどこにいったのだろうか。


今はその背中が頼もしく思えた。


「さあ!つきましたよ。早速片っ端から聞いていきましょう!」


「部員の多い所を優先するんじゃなかったのか?」


「あ、そうでした。私としたことがうっかり」


そう言い、テヘッという効果音が出そうなポーズをとった。


さっきまでの頼もしさが嘘のようだ。


「それで、文化部で部員が多い所は知ってるのか?」


「そこはご安心を、ここにこの学校の各部活部員総数表があります。もちろん、自作です」


ドヤ顔で見せてきたそれは名前と学年ごとの部員の総数が記された本だ。


頼もしいのか頼もしくないのか分からなくなってきた。


「1番多いのは吹奏楽部ですね。ではいざ、吹部へ!」


そう言うと足早に歩いていった。


⭐︎⭐︎⭐︎


3階にあった部室に到着するとそこには厚い扉が待っていた。


各部活によってその部室の大きさは異なり、特に文化部は大きい部屋が多い印象だ。


その中でも規模の大きい吹奏楽部は一際大きく感じた。


「すいませーん!インタビューさせてくださーい!」


そう言いながら扉をゴンゴン叩く。


本当にインタビューを頼みにきた人なのだろうか。


少し間があったが扉が開いた。


「どちら様ですか?」


ショートヘアの小柄でおとなしそうな子が出てきた。


「お忙しい中失礼します。インタビュー部1年の左鳥ちほです。吹奏楽部の方にインタビューをしたくて来ました。部長さんはいらっしゃいますか?」


今までにない真面目な言い回しに驚いた。


「あ、部長なら今外出中です。たぶんもうすぐ帰って来ると思います」


驚くほどに小さな声だった。


「分かりました。それではここで待たせていただいてもよろしいでしょうか?」


「もちろんです。私も部長が帰って来るまで一緒に待ってます」


そう言い、扉の横で3人座りながら待つことになった。


「あ、あの」


大人しそうな子が小さな声で話し出した。


「自己紹介がまだだったので、しておこうかと。私は1年の小池莉鼓です。そちらの方は…」


そう言い俺に目線を向けてきた。


「自己紹介が遅れて申し訳ありません。同じくインタビュー部1年の向井作です」


「同じ1年だったんですか!これから仲良くしましょう。是非連絡先を教えてください!」


小池さんの手を握り上下にブンブン振りながら話した。


向こうはかなり困惑しているからやめておけと言いたい所だったが止めても無駄なので諦めた。


そうして連絡先を交換すると満足したのか落ち着いた。


するとまた小さな声で話した。


「私、こんな感じで声も小さくて話すのも苦手で…自信がないんです。なので不快に思われてたらすみません」


なんて謙虚な子なんだ。


一瞬彼女が小動物に見えた気がした。


それを見たインタビューちゃんが大きな声で話し出した。


「不快だなんて思いません!話のできなさならここにいる人よりマシですよ!」


そう言い俺の方を指差した。


「なにせここにきてからまだ自己紹介しただけですからね!」


そうだよ!と同調すると自分が惨めになるのでやめた。


「それに、私はお話ができただけで幸せなんです。話をしただけで不快に思う人なんてそうそういませんよ」


そう話すと、くもっていた小池さんの顔が明るくなった。


「ありがとうございます。そう言っていただけて嬉しいです」


先ほどの表情からは考えられないほどの笑顔を見せた。


パシャッ


インタビューちゃんが目を輝かせながら小池さんの写真を撮っていた。


「いい笑顔ですね!是非吹奏楽部の記事を作るときに利用させてください」


「や、やめてください!!!」


顔が一気に赤くなりスマホを取ろうとするが、体力が先に尽きて諦めた。


少し休憩を挟んだらまた小さな声で話出した。


「あ、あの。向井さんも連絡先交換しませんか?」


スマホを両手で持ち、口元に持っていき少し赤くした顔で話した。


「わ、分かりました」


つい固くなってしまった。


「さっくん顔赤くなって、照れてるんですか?」


そう言うとインタビューちゃんが怪しそうな目でこちらを見てきた。


「別に照れてませんよ」


そう言い目を逸らした。


「ふーん………まあいいです。あと敬語になってますよ」


なんだよその間は。


そんな話をしながら連絡先を無事交換した。


心なしか小池さんは嬉しそうな顔をしていた。


談笑していると堅苦しそうな長身の女性がこちらに近づいてきた。


硬い表情のまま話し出した


「小池、こんなところで何をしている」


こちらからも小さな声で話し出した。


「あ、部長、お疲れ様です。こちらお客様で…」


「インタビュー部の1年左鳥ちほです!あなたをインタビューさせてください!」


インタビューちゃんが話を遮るように大きな声で話し出した。


「断る」


硬い表情のまま一瞬の間も置かず断られた。

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