第14話 同じ過ちは繰り返さない
「その、先ほどはすまない……何か、気に触ることを言ったのなら謝る」
「……大丈夫ですよ。ありがとうございます」
気にしていないはずないのに、笑顔で返してくれた。大丈夫か……アイザックと同じ口癖なんだな。
絶対に、同じ過ちは繰り返さない。俺が見つめていると、顔が段々と赤くなってきた。
スープを飲んだからか、体温が上がったのか。それとも、熱でもあるのだろうか。
おでこに、おでこを重ねた。頬を触ると、不思議そうに見つめてきた。
サファイアの瞳で見られると、途端に恥ずかしくなってしまう。両手で顔を覆って、離れた。
「熱はないようだな」
「えっと……あ、あの」
「すまない……顔が赤かったから」
見つめられていて、自然と見つめ合った。ルークは目を逸らして、立ち上がった。
俺と目を合わせるのが、嫌なのだろうか。考えてみたら、アイザックも最初はそうだったな。
心が通ううちに、自然と目が合うようになった。あまり焦る必要も、ないのかもしれないな。
一緒に洗い物をして、出かける約束をした。家族に何か贈りたいらしいからな。
俺では何がいいのか、分からない。一緒に行って、探すのが一番いいのだろう。
デートということで、俺は浮かれまくってしまった。洗い物が終わって、声をかけた。
「さて行くか」
「あっ、はい」
手を差し伸べると、中々手を取ってくれなかった。浮かれていたのは、俺だけだったんだろうな。
手を引っ込ませて、何も言わずに玄関まで歩いた。馬車に乗り込んだのを見て、進ませた。
雪が降ってきていて、滑ると危ない。ゆっくりと進ませたが、馬車を操作すると言ってきた。
外は寒いから、少しでも中にいたほうがいい。そう思って断ったのだが、なんとなく元気がないように見えた。
「着いたぞ」
「はい……えっと」
馬車を止めて、声をかけた。もう一度手を差し伸べると、またもや手を取ってくれない。
引っ込ませようとすると、今度は困惑しながらも繋いでくれた。それが嬉しくて、舞い上がってしまう。
「行くぞ」
「はい」
チラ見していると、微笑まれた。綺麗なサファイアの瞳を見ると、ドキドキしてしまう。
急激に恥ずかしくなって、そっぽを向いてしまった。そのまま静かに、馬車から降ろした。
俺は早く買い物をして、プレゼントしたかった。だから急いでしまったんだ。
街中に入っていくと、人混みが凄かった。そのせいもあってか、人混みをかき分けて歩いた。
しかしそこで、ルークが無理していることに気がついた。止まって後ろを向くと、肩で息をしていた。
「あっ……すまない」
「だっ……はあ……いじょうぶ……で」
「無理はするな」
大丈夫じゃないだろう。デートが楽しみすぎて、浮き足立っていた俺が悪いか。
やはりアイザックと同じで、大丈夫が口癖のようだ。辛いのなら、辛いといってほしい。
泣き言を言うことに、慣れていないのかもしれない。俺は口が上手いほうじゃない。
いつも言葉を間違えてしまう。頼りないのかもしれないが、少しずつでいいから弱い部分も見せてほしい。
暫くすると、落ち着いたようだった。とある露店の前に行って、色々と見て回っていた。
「ふむ……」
色々な品物を見て、ルークに似合いそうなものを探した。その間、観察していると欲しいものがあったみたいだ。
おそらく、品物からいって家族へのプレゼントだろう。買いたいのか聞こうとすると、ため息をついていた。
遠慮しているのだろう。そのため、気を遣わせないように買うことにする。
「……それとこれをくれ」
「それって……」
「必要なものなのだろう」
「ありがとうございます」
お礼を言われて、俺は嬉しくなってしまう。俺がやりたくてやっている只の、自己満足だ。
お礼なんて、求めていない。そのはずなのに、こんなにも嬉しい。
帰り道に、手を取ってくれた。その温もりが暖かくて、癒された。
照れくさくて、頬を掻いてしまう。ルークの歩幅に合わせてると、嬉しそうにしていた。
「今日は帰ったら、休め」
「……分かりました」
馬車に乗り込んで、屋敷へと帰る。何やら、ルークの顔色が優れなかった。
もしかして、お風呂の入りたいのかもと思った。アイザックも、たまにしか入れなかったが、お風呂が好きだった。
人間は、お風呂が好きなのだろう。失念していたな。そう思って、入るように促した。
「これで、元気になるだろう」
その作戦は上手くいったようで、ぐっすりと眠っていた。人肌が恋しくなるというのは、本当なのかもしれない。
百年以上欲していたものだ。少しぐらいなら、いいだろう。
そう思って勝手に、ベッドに潜り込んだ。後ろから抱きしめると、直ぐにいい夢を見た。
「アイザック……」
「ジェイデン……愛してる」
「俺もだ」
目が覚めると、ルークの目に涙が溜まっていた。俺は何かあったのかと心配になった。
もしかして、俺が勝手には入ったからか。吸血鬼だから、まだ怖いって思っているのかもしれない。
「ルーク……泣いているのか」
「あっ……欠伸したからですかね」
「そうか……よかった」
安堵のため息を漏らして、愛おしくて仕方ない。食事をしてから、俺たちは出かけた。
もしかしたら、家族に会いたいのかもしれない。プレゼントも買ったからな。
俺の差し伸べた手を、迷うことなく取ってくれた。たったそれだけのことで、俺は嬉しくなってしまう。
家族に会えて、嬉しそうにしている。やはり、元気のない理由の一つだったな。
「ルーク……」
「お兄ちゃん!」
「元気そうでよかった」
幸せそうに抱き合っている姿を見て、羨ましいと感じた。俺にはもう、そんな風に心配してくれる家族はいない。
久しぶりに、母の墓参りにでも行こうか。そう思って、自然と笑顔になった。
例え、前世を覚えていなくても近くにいて欲しかった。むしろ覚えていない方がいいのかもしれない。
亡くなったのは、自分が不甲斐ないせいだったからだ。だからこそ、今回は絶対に間違えない。
――――待ち焦がれて巡ってきた、たった一つの光なのだから。
今度こそ、お前を完璧に守ってみせる。だから、俺の隣で笑っていてほしい。
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