第12話 尊いんだ

 生まれ変わりとはいえ、同じ人間ではない。考え方も違うだろうし、時代も全てが違う。

 俺の勝手な想いで、繋ぎ止めるのは良くない。そう思っていたのだが、了承してくれた。


「では、明朝今日と同じ時間に迎えにくる。準備をしていてくれ」


 俺は浮き足だって、屋敷へと帰った。ルークに必要なものを、市場で仕入れた。後日、届くようにしてもらった。

 次の日。家に迎えに行くと、準備は出来ているようだった。俺は逸る気持ちを抑えて、声をかけた。


「ルーク、行くぞ」

「あっ、はい」


 お母様からソウシタエを、受け取ったらしい。後でまじないをかけてやろう。喜ぶ顔が目に浮かんで、俺は嬉しくなってしまう。


 ルークの妹のアメリアを見た際に、何処かで見たような気がした。気の所為だと思い、特に気にしないことにしよう。


 考えてもみなかったが、アイザックには両親はいなかった。だから、ルークの家族のことを気にしていなかった。


「月に一度、顔を見せに来ると約束しよう」


 俺がそう言うと、ルークは嬉しそうにしていた。その笑顔が、見たかった。

 この世界で一番、尊いんだ。もう一度、見ることができて俺は心の底から安堵する。


 手を繋ぐと、懐かしい温もりを感じることができた。馬車に乗り込んで、俺はソウタシエのことを告げる。


「先ほどの、ソウタシエを渡せ」

「こっ……れはダメです」


 喜んでくれると思ったのに、ソウタシエを握って首を横に振った。

 そうか、俺のことが怖いのか。そう思っていると、トレイターに怒られてしまった。


「ジェイデン様。その言い方は、よくないです」

「すまない……言い方が良くなかったな。まじないをかけよう」

「まじない……ですか」


 このまじないは、よく効くんだ。アイザックにも、するべきだったと後悔していた。

 だから今回は、絶対に間違えない。屋敷に着いて、トレイターは用事があるらしく出かけた。


 陽が差している窓があり、俺はそこを避けている。アイザックは、陽の光が好きだった。

 日向ぼっこというものが好きらしい。俺はそんなアイザックを見つめるのが、好きだった。


 部屋のドアの前の、日の当たっていない少ないスペースを歩いた。ルークのために、これぐらいなんてことない。


「あの……カーテン閉めますか」

「いい」

「でも……日差しは」

「そのままでいい」

「分かりました」


 どことなく元気がないように見えた。しかし、こんな時の慰め方を俺は知らない。

 俺に頭を下げて、部屋の中に入って行った。俺は屋敷の中を、適当に歩いて色々と考えていた。


「アイザックは、スープが好きだった」


 しかし作ったことはなく、いつも自分で作っていた。後でトレイターに聞いて、作ってみよう。

 ルークのことが心配になり、俺は部屋に入った。すると、独り言を呟いていた。


「あくまでも、口約束だし……守られるのかな」

「それは大丈夫だ」

「ジェイデンさん……」


 心配いらない。俺がお前に嘘をつくことなんて、絶対にないからな。ベッドの縁に座って、髪を触った。


 俺は昔を思い出して、悲しくなった。アイザックはここには、いない。

 魂は同じだが、全く同じではない。だけど、アイザックの分もルークを幸せにするんだ。


「大丈夫だ。絶対に今度こそ、間違えない」


 寝てしまったようで、シーツをしっかりとかけた。おでこに口付けをして、俺は部屋を出た。

 お腹が空いたようで、食堂へと向かう。血液を入れていく貯蔵庫を開けて、グラスに注いだ。


「……不味いな」


 一口飲むと、あまりの不味さにため息が出てしまう。アイザックの生まれ変わりに出逢えた。

 あまりの嬉しさに、俺は周りが見えていなかった。一緒に来てはくれたが、半分強引だったような気がする。


 ルークには家族がいて、他にも大事にしてくれている人がいるだろう。もう少し、事を慎重に運ぶべきだったか。


「一緒に住めばいいのだろうか」


 この屋敷は部屋はたくさんあるし、ここでならもう二人増えても問題はない。

 但し、それは吸血鬼と住んでいいと思ってもらえることが条件だ。


 現状俺は、ルークを無理に連れてきたやつだ。自分でもそんなことは分かっている。

 そんな事を考えていると、ルークが食堂にやってきたようだ。俺が血を飲んでいるのを、凝視している。


「あの……僕の血を吸ってください」


 絶対に、そんなことはしない。もう二度と、同じ過ちは繰り返さない。

 まともに顔を見ることが出来ずに、俺は目を逸らしてしまう。


「いらない」

「僕に構わずに、吸ってください」

「いらない」


 血なんか求めていない。欲していないといえば、嘘になる。

 しかし血を求めたことで、アイザックが吸血鬼化してしまったんだ。


「お前は、私の側にいてくれるだけでいい。それだけでいいんだ」


 俺の言葉に傷ついたのか、何も言ってくれなかった。こんな時、どうすればいいのか俺には分からない。


 ルークが何を欲しているのか、それが知りたい。とにかく、明日には大量のプレゼントが来る。

 次の日。荷物が届いて、玄関に置いていた。すると、眠たそうにルークが顔を見せた。


「起きたのか」

「あっ……はい。何か、手伝いましょうか」

「ではここに来い」


 俺が用意した服を着てくれようとした。それは嬉しいのだが、ここで着替えるのは目の毒すぎるな。

 白い首筋や胸元が見えて、恥ずかしくなった。後ろを向くと、着替え終わったようで見せてくれた。


 かなりサイズが大きかったようで、ブカブカだった。愛らしい……空から舞い降りた天使のように見えた。

 アイザックよりも、身長が低いようでサイズが合わないようだ。見つめていると、脱ごうとしたから両腕を掴んだ。


「……ジェイデンさん?」

「気に入らないのか」

「僕にくれるんですか」


 俺が首を縦に振ると、嬉しそうに微笑んでいた。他の人へのか……要するに、遠回しにいらないってことだよな。

 プレゼントでも、元気にはなってくれないのか。他にはどうしたら、いいのだろうか。


「トレイター、この荷物。処分してくれ」


 トレイターが来たから、俺はそう言ってその場を後にする。突き当たりを曲がってから、俺は壁にもたれかかった。

 自虐的に笑うしかなく、足は自然と裏庭へと向かう。アイザックの墓石の前に、座った。

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