一章 中一 航

「ちゃんとやれよー」

こんな言葉、もう聞き飽きた。好きだったバスケへの愛想をつきそうなぐらい。

部活辞めたいな。一人で過ごしたいな。

なんて、色々考えながら歩いていくと普段の通学路とは違い異様な空気が漂っていた。そこには神社があった。

「ここ。神社なんてあったっけ。」

と思っていたら僕の向かう方向は家ではなくその不思議な神社だった。無意識のうちに向かっていたのだった。

 神社の境内に入った。中は暗くてなんだかお化け屋敷のよう。僕は冷や汗をかきながらも好奇心に包まれそのまま奥に進んだ。しばらく経つと奥の方に小さな二つの光と物影が見えた。恐る恐る近づくと影がいきなり喋った。

「お前。悩んでるみたいだな。生きづらい世界だよな。」

僕は共感したあまり、返事を返す。

「本当にそうだよね。嫌になっちゃう。」

と言いながら、暗い中でものが見えるようになった。そして僕は驚いた。

「え、猫⁉︎」

そう。今まで話していた気が合う相手は猫だったのだ。

「ああ。紹介が遅れたな。すまない。私はこの神社の主。龍だ。」

と、この猫―龍が言った。そこで僕は疑問に思った。なぜ猫なのに龍なのか。名をつけた人のネーミングセンスがなかったのか。でも、なんとなく、触れない方がいい気がした。

そうこう思っていると龍がまた話し始めた。

「頭の整理はできたようだな。では早速。お前がここにきた理由を教える。お前は帰り道、悩みながら帰っていたろう?この神社はそんな人たちの悩みを解決するところなのだ。」

全部当てられた。もしかして超能力者なのかもしれない。と思いつつ、引き続き龍の話を聞いた。

「悩みを解決する方法はただ一つだ。明日丸一日。私がお前の周りについて歩く。これだけのことだ。」

と言った。僕は新たな疑問を龍に伝える。

「悩みを解決してくれるのはありがたいけど丸一日近くに猫がいたら、親にも先生にも怒られない?」

そう言うと龍は考える素振りも見せずに

「安心しろ。お前以外に私が見える人などおらぬ。」

ますます疑問が増える一方だが、とりあえず。

「そうなんだ。じゃあ、よろしくお願いします」

頼むことにした。気が散りそうな気もするけど。

 そして翌日の朝を迎えた。起きたらすぐ真横に龍がいてビビった。そうだ。今日いるんだ。とか考えてたら龍が口を開いた。

「おはよう。いつも通り生活してもらえれば。いや、生活してくれ。その方が効果がある。」

らしい。

 そして僕は朝ごはんを食べ、学校へ行く準備をして家を出た。もちろん、龍も一緒だ。いつも一人で歩いている通学路も龍がいるだけなのに寂しくない。少し気持ちが軽くなった。

 クラスに入っても誰も龍がいることに触れなかった。本当に見えてないんだ。僕の視界に入っている龍は床に座っていた。こう見ると普通の猫なんだど思った。

 いつも通り授業を受け、部活の時間。地獄の時間になった。龍がいるなら上手くいくだろうと思っていたが違った。言われることはいつもと同じだった。なんの変化もない。申し訳ないが効果があるなんて微塵も思えなかった。そう思いながら部活をしている時も、遠くから見守っていたようだ。

 部活も終わって帰り道。僕は龍に尋ねた。

「今日何も変わらなかったじゃないか。効果なんてあるのか?」

そうすると毎回のように考える素振りを見せず

「丸一日近くにいるんだから。今日効果が出るわけではない。」

らしい。僕は納得した。きっと明日には楽になっているんだろう。そう思いながら眠りについた。

 朝起きるとそこに龍の姿はなかった。なんの前触れもなく消えたから驚いた。そこで僕はあの神社に行けばまだ龍がいるかもしれない。そう思い部活帰りに立ち寄ってみることにした。

 龍の効果なのかバスケの試合はいつもに増して上手くいった。ここにいるなら、すぐさまお礼をしたかった。

部活が終わり神社に向かおうと思ったのだが、どうしても神社の場所が思い出せない。空も暗く藍色かかってきたから僕は慌てて家に帰った。

 きっとこれは龍からの忠告なんだろう。

「もう一人でできるだろ。」

そんなことを言っているように思えた。



それから十五年ほど経った後。僕はバスケ選手になり世界で活躍できるまでにもなれた。未だ龍が何者だったのか分からない。だけど僕の背中を押してくれた。運命を変えてくれた。

このことを胸に、今日も僕はゴールに手を伸ばす。

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