Ex-5 幼馴染の後悔

 私、観納みのう のぞみは幼馴染の栄渡えど 晴政はるまさが好きだ。


 その想いを自覚したのはいつだったか、小学生六年生のとき…それも卒業を間近に控えた時だ。

 でもその気持ちを持て余した私は、中学の時に皆の前で彼との関係を否定してしまった。



 これはその時の記憶おもいで


「もう卒業か…早いね」


「そんなもんでしょ」


 それは小学生の時、もう卒業まで一週間を切って、しみじみとしている私に彼はそっけなくそう言った。


「晴政は寂しくないの?」


「別に」


 相変わらず素っ気ない反応。

 それもそのはず、彼はつい先日から両親の仲が悪く居心地の悪い日々が続いている。

 そのせいでとてもやさぐれており、今にも泣き出しそうなほど悲しんでいるような、今にも暴れだしそうなほど怒っているような…そんな二つの感情が入り乱れた独特の雰囲気を纏っている。


 そんな彼の手をそっと握る。


「私は、晴政と一緒だからね」


「…うん」


 鋭かった雰囲気が少しだけ柔らかくなった。

 彼は元々人とのスキンシップは好きなのだ、というか私がそうさせたともいえる。

 ことある事に抱きついたり、手を繋いだり…稀にだけど頬にキスしたり。

 この時までは、彼とは正直に向き合っていたんだ。



 でも時が進んで中学生になって、彼はさらにおかしくなった。

 そう、遂に晴政の両親が離婚してしまった。

 優美ゆみおばさんは優しい人で、私も大好きだった。

 もちろん晴政は私よりあの人のことが好きだろう、掛け替えのないお母さんなのだから。


 そんな人と別れてすぐ、彼の父が再婚した。

 家には慣れない人たちがいて、彼が酷く困惑しているのが分かる。

 今までロクに関わったことがない人達がいきなり同居し始めたのだ。

 しかもお母さんとは離れ離れなんだ、ただでさえ荒れているのだからそれが悪化するのは仕方ない。


 そして私は…。


のぞみおはよー、相変わらず栄渡君と仲良いねぇ…やっぱり付き合ってるんじゃないの?」


 彼と一緒に登校する度に、こうやって友達にからかわれる。

 だからなに?いちいちそうやって笑うのはやめてよ!そんな感情が私の胸中に渦巻く。


「別にそんなんじゃないよ、私と晴政はただの幼馴染でそれだけの関係だって。なんて言うか…義理ってやつ?」


「へぇー」


 彼女は私の言い分に対し、疑うような視線をしつつ笑いながらそう相槌を打っている。


 もう何回もこんな事ばかりだ、私としてはそっとしておいて欲しいのに、誰も彼もがそれを邪魔をする。



「晴政、帰ろ!」


「いや、今日はコイツらと帰るよ」


 今日の授業が終わり、下校するために彼の元へ行くが彼は少し素っ気ない対応をする。


「そっか、わかった…」


 そう言うのなら仕方ないと、私は一人で帰った。



 彼のその対応は、私の日頃の行いによるものだということをその時は気付かなかった。

 それは始まり、そして私の行動はどんどん自分を苦しめる。


「あれ?今日は彼と一緒じゃないんだ」


「当たり前でしょ、アイツとは何でもないんだから」


 友達の言葉にそう返す。

 そう、ここ数日は彼と一緒に登校していない。

 断られるんだ、一緒に行こうと呼びかけるがとても素っ気ない。


 それでもどうにかなるだなんて事態を甘く見ていた。バカな私。


 "'違うって、晴政アイツのことなんて全然、コレっぽっちも気にしてないって''


 "アイツはあれだよ、ただ単に腐れ縁の友達で全然異性として意識なんてしてないから''


 "最近は全然だよ?私もアイツもこんなもんだって''


 友達から晴政との関係で何かを言われる度に、こうやって否定し続けていた。私の心さえも…。


「ねぇ希?本当に彼のこと好きじゃないの?」


「当たり前でしょ」


 いつになく真剣な表情をしている友達に私はそう返した。からかわれている訳でもないのにどうしてか神経質になっていた。


「別に二人のことを笑おうってんじゃなくて、本当に心配なんだよ?好きなのにそれを否定して続けてたらきっと…」


「いいの、私とアイツはそーゆーのだから」


「希がそう言うならいいけど…」


 それは真剣な忠告だった。

 なのに私はそれに耳を傾けず、何度も何度も同じことを繰り返した。

 あまつさえ話題に上がった先輩を持ち上げて、晴政よりずっと素敵だとか、付き合うならあの人がいいなどと言ってしまった。

 そして勘違いしたその先輩から告白される始末。どれもこれも自業自得だった。

 ただその事が晴政にバレていないことが不幸中の幸いだったのだろう。


 そうして私は、自分自身の手で丁寧に確実に晴政との関係を壊した。

 ただでさえ不安定だった状態の彼にそんな事をすれば疎遠になることは自明の理。

 気が付けば彼との時間はなくなって、中学三年の時は丸々一年口を聞かなかった。

 というより、明らかに避けられていた。


 そうして高校に入学して数ヶ月…晴政に彼女ができた。

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