三十七話 懸念

「よう晴政」


 学校が終わった俺は彩藤さいとうさんに会いに来た。俺を見つけた彼は手を上げる。

ここは家の近くの喫茶店だ。


「すいません彩藤さん、時間もらって」


「やめろやめろ堅苦しい」


 今日彼に会いに来たのは、希のことについてだ。

 希が莉乃やらチャラ男やらに例の画像と動画を送ったことについて。


「あのバカに送ったデータだろ?あれは俺じゃなくてアイカがやったからなんとも言えないが…まぁアイカが他の連中にバラすことはないだろ、あのバカに送ったのは姉の画像だけだしな…ただ気を付けとけよ、もしアイツがトチ狂って姉に手を出すような事があったら最悪だからな」


 アイカとは彩藤さんの彼女さんである。


「そこの心配もできる限り解消しないとな」


 そう、懸念点の一つはそこだ。

 あのチャラ男が極まった行動に出たとして、もしその被害に遭うのが花澄はすみさんだとしたら最悪だ、なのでできる限りヤツが考えつかないような、かつ俺のすぐ近くにいてくれれば楽なのだが…。

 特に彼女はヤツの姉、家族なのだからいつどこで接触しても不自然ではない。


「取り敢えずアイツの携帯に画像を送っちまったわけだから消さないとまずいよなぁ…」


「携帯ぶっ壊せばいけんじゃね?」


 まぁ彩藤さんの言う通りであるが、それは力技が過ぎるので良くはないんだよなぁ…全くのぞみもやってくれたな。

 今度こういうことの危険性をハッキリ言い聞かせておかないとな、あまりにも不用心だ。


「まあ少なくともしばらくはアイツも出て来れないだろ、あのクソ親父がゲロったお陰でな」


「その件でアイツが困ることってあるのか?実行犯はクソ親父だし…共犯とか?」


 そこに関してはあまり期待していなかったのだが…。


「まぁそんなとこだ」


 どちらにせよ、ヤツが出てくる前には手を打ちたい。

 またみんなの協力が必要だな。

 内容が内容だけに俺が直接 出向く必要はありそうだが…。


「ヤッホー マサくん」


 彩藤さんと話をしていると後ろから見知った顔だやってきた。


「アイカじゃんおっす」


 彼女は彩藤さんの彼女だ、まさかここに来るとは。


「ツヨシから聞いたよ、希ちゃん…マサくんの彼女…」


「そうだな、アイカがあのバカに送信したとかって聞いたけど…」


「そうだよ、とはいえ多少加工はしてあるけどね。ただアイツが見たらお姉さんって分かるくらいには顔とか隠してあるし大丈夫だとは思うけどね」


 どうやら彼女なりにある程度そのあたりのことも気遣ってくれたらしい。色々と世話になる。


「しかし派手にやられたね、あれから何日も経ってるのにまだ傷だらけ」


「本当だよ」


「でも、ホントに無事でよかったよ…あのバカには一発 玉潰してやらないと気が済まないね」


 彩藤さんから彼女も相当怒っていたということを聞いたが、まさか玉を潰すときたか。

 そうなれば一発で終わりだな。


「せっかくならアイツのお姉ちゃんをガッツリ惚れさせなよ。なんなら結婚までしちゃえ」


 正直 復讐とか無しに花澄はすみさんと結婚するのは前向きに考えている。

 ただ希もいるからなぁ…どちらを選ぶのか焦らずに、そして真剣に考えようと思う。


 なんだかんだと三人で喋ったあとはそのまま解散し、そのまま家に帰ったのだがそこでまさかの人間に声をかけられた。


晴政はるまさ君?」


「え?」


 そこにいたのは元義母…来江くるえさんだった。


「ごめんなさいね…実を言うと晴政君と話がしたかったから声をかけたのだけれど…いいかしら?」


「嫌ですぅ」


 今更どの面下げてそんなことを言ってきたのだろう?あの時、クソ親父との離婚をする為に俺たちが集めた証拠を共有してやったのは、そっちの方がクソ親父が困るだろうと思ったからだ。

 半分は気まぐれである。

 つまるところ、別に彼女に良い感情は抱いていない。ただでさえ胡散臭いのだ、違和感しかない。

 一体何を考えているんだ?

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