二十五話 発見、しかし…

 気を失っては目が覚め、そして暴行を受けて…そんな事が繰り返され、俺はだいぶ疲弊ひへいしていた。


 夜が明け、部屋が明るく照らされる。

 先程目が覚めた俺は、強い吐き気と倦怠けんたい感、寒気に喉の乾きや頭痛に全身の痛みと、相当な不快感に苛まれている。


「やぁおはよう晴政はるまさ、調子はどうだ?んー?」


 この憎らしいクソ親父はニヤニヤと俺の様子を見て、バカにしたように嫌味を言ってくる。


「しかし随分と臭いなぁ…風呂に入ったらどうだ…なんてな!ははは!」


 悪趣味なクソ親父は随分と調子が良さそうだ。

 対する俺は、そんな嫌味に言葉を返せないくらい酷い調子だ。


「全く、せっかく朝から機嫌が良いというのに…その目をやめんか!」


 睨む事しか出来ない俺の顔を殴る。

 何発と殴るその一発が腹に入り、その衝撃で俺は嘔吐した。


「うわっ…汚いだろうこのグズめ!」


 嘔吐した俺を数発殴り、クソ親父は会社に行った。


 嘔吐したといっても胃には何も入っておらず、出てきたのは胃液だけだ。

 ずっと同じ体勢をさせられ食事すらとれない…もう俺は、ダメかもしれないな…。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 昨日クソ親父を尾行した酒匂さかわから、暴れるような激しい音がすると聞いて、酒匂と俺とでマサの家にやってきた。


 酒匂はマサを助けるために今日は仕事を休んでくれたらしい。

 時刻は午前九時頃、あのクソ親父は会社にいることは確認済みだ。


 一階リビングの窓、その鍵のガラスを小さく割って鍵を開ける。

 中に侵入して感じたのは異臭だ。

 体から血の気が引き、冷や汗が溢れ嫌な予感が的中したかと、急いでマサの部屋に行く。


 間違いなく事件だ、すぐに酒匂には警察に通報させた。

 俺はマサの部屋のドアを開ける。

 視界に飛び込んできたのは、椅子に縛られて酷い姿となっているマサだった…。



 あれからすぐに警察が来て、マサが縛られ気を失っている状況からすぐに救急車がやってきた。

 警察が来る前に俺は家の鍵を開けておき、警察の捜査のためにマサをそのままにした。というかせざるを得なかった。

 酒匂は警察には '' 夜中に暴れるような物音がする、また叫び声が聞こえてくることもあるのでなにか事件があるかもしれない '' と通報してくれた。

 俺たちはあくまで近所を通りかかってこの家から異常を感じたという体を演じた。


 俺たちに発見された時、アイツは極度の栄養失調になっており、また高熱を出していた。

 どうやら栄養失調が祟って酷い風邪を引いたらしい。


 あのクソ親父はすぐに逮捕された。

 本当はすぐにでもぶち殺したかったが、まずは法で裁いてからだ。

 それが終われば、俺たちが手を下してやる。




 あれから数日経ったがらマサは相変わらず目覚めない。

 アイツの母親も幼馴染も義妹も大きくショックを受けていたし、マサの姿を見た裏木が途端に泣き崩れたのはよく覚えてる。


 四人とも毎日見舞いに来ているし、今も裏木が傍にいる。



 マサは俺の相棒と言っても過言じゃないくらい仲が良い。

 バイトでも頼りになるし、喧嘩になりゃそうそう負けない、背中を任せられるヤツだった。

 俺とアイツが出会ったのは、アイツの両親が離婚した後だった。

 その頃の俺はあっちこっちで暴れており、もちろんマサにも喧嘩を吹っ掛けた…引き分けだったけどな。


 その時から何となく仲良くなっていったとは思う、気付けば良いダチって感じだったからな。

 それからしばらくして、俺は知り合いが店長を務めるファミレスで働き始めて、マサが高校に入ってからはヤツも誘って一緒に働いた。

 かけがえのない相棒なんだ…。


「もっと早く動いていれば…クソッ…」


 もし当てが外れたら…もしクソ親父がマサを別の場所に監禁していて、マサを探していることがバレたら…下手に追い詰めてとち狂ったクソ親父がマサを手にかけたら…。

 そんな可能性ばかりがよぎり行動が遅れてしまったことで行動が遅れてしまったが、いざ動いてみれば随分と単純なことだった。


「絶対に無事で終わらせねぇぞ…クソったれ…」

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