二十三話 やられた

 俺は何処か見覚えのある暗い部屋で目を覚ました。

 月明かりが照らす部屋を見れば、そこが元俺の部屋であることが分かる。


 ジンジンと後頭部が痛む。

 どうやら思い切り殴打されたらしい。

 俺はどうやら勉強机用の椅子に縛られているようで動けない。

 考えるまでもなく監禁だ、かなりマズい状況である。監禁された人間の末路などどうなるか…ロクなものではないだろう。

 なんとか逃げることができないかと考えるが…ダメだ、手足を縛るロープが思いの外固く、解けそうにない。


 しばらくすると扉が開いた。

 それこそこんなことをする人間など一人しかいないが、それでも誰が入ってきたのか確認してしまうのは人のさがだろうか。


「…ッチ、クソ親父…」


晴政はるまさ、元気そうだな」


 やはり、そこにいたのはクソ親父だった。

 正常な状態ではないのだろう、目がギンギンとしており、怒りに狂っていることがうかがえる。


 黙ってクソ親父を睨みつけていると、ヤツは俺を殴打してきた。


「口を塞いでいるわけじゃないんだ、挨拶くらいせんかバカ者め」


 バカはどちらかと、ニッコリと挨拶を返される立場だと思っているのがそもそもおかしい。自分が何したのか、そして今何をしているのか分かってないらしい。


「お前のせいで散々な目にあった」


「自業自得だろ」


 クソ親父は恨み節でも言うつもりなのだろうか。

 散々な目にあったなど、それはこっちのセリフだ。


「っ…お前のせいで働き詰めで、夜の楽しみも、家族さえ失った!」


「だから自業自得だろって」


「ック!このクソガキがぁ!」


 そこからは俺は激昂したクソ親父にいつまでも殴られ、蹴られた。

 椅子に固く縛られているからか、受身を取ることさえ許されず、その状態で一方的にやられ続けた俺はいつしか気を失った。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 マサがいなくなってから二日ほど経った。

 あの日、裏木うらきを送ったアイツは突如として姿を消した。


 その事に気付いたのは、アイツの母親から連絡があったからであり、夜遅くになっても連絡さえ寄越さないことに異常を感じ俺に連絡をしてきたらしい。


 裏木曰く、あの日は家で別れるまでは一緒にいたということなので、間違いなくその後に何かが起きたという事だ。

 彼女もかなり憔悴しょうすいしている。



「どうだ酒匂さかわ、なにか分かったか?」


「ダメっす、皆知らないって言ってたっす」


 あれから俺達もただ手をこまねいていた訳じゃない。

 酒匂と俺は二人して知り合い周りを当たって聞き込みをしてきた。


 全員マサとは仲が良く、アイツがいなくなったと知って、一緒に探すと申し出てくれた。

 アイツの人望がよく分かる。


「ただ、一つ気になることがあったっす」


「なんだ?」


「あのクソ親父の機嫌が妙に良いんすよ、前までは死にそうなツラだったのに…」


「それは怪しいな、いつ頃からだ?」


「マサ君がいなくなった次の日っすね、正直ビンゴだと思うっす」


 それは俺もだ、タイミングがあまりにも合いすぎている。

 疑うなというほうが難しいだろう。


「クソ親父がマサに何かしらの復讐をしたから、スッキリして機嫌が良くなったと言えばしっくりくるが…」


 ただ、マサがあのクソ親父に遅れをとるとは思えない、協力者の可能性も考慮すべきか…そうなればソイツを捕まえて締め上げてやる。徹底的にだ。


「まずはクソ親父に探りを入れてみるっすよ、まぁシラを切るだろうけど」


 何もしないよりは…と言ったところか。


「もし出来たらでいい、クソ親父の後をつけて見てくれないか?」


「いいっすよ、必ずヤツの鼻を明かしてやるっす」


 二日も経っている上、手がかりがクソ親父だけという…状況はかなり悪いと言えるだろう。

 クソ親父ではなかったらかなりマズいが、不思議とヤツを追いかければマサが見つかるような、そんな気がした。

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