二十二話 再び訪れる災難

 莉乃りのをバイト先のファミレスに連れてきて数日。

 彼女は物覚えが良く、思いの外頼りに出来るくらいには成長した。

 仕事をしてからというもの考え方も変わったのか、アホな事を言わなくなった。いい事だ。


「ハル君!」


「おう、どした?」


 今日のシフトは終わったので、莉乃と一緒に帰ることになった。あんなんでも女性なのであまり夜道を一人で歩かせないためであって決して彼女が心配とかではない…よ?


「抱いて!」


「バカ!」


 ……前言撤回。

 コイツは何も変わってないし、やっぱり置いていこうか。もう知らねぇよこんなヤツ。


「やっぱりダメかぁ…」


「逆になんでいけると思った」


 何だかんだと言いつつ二人で肩を並べて歩く。

 前ほどの距離感ではないものの、ある程度の仲直りは出来ていると言ってもいいだろう。

 許すかどうかは別として、コイツはコイツで反省したのだ。

 クソ親父に一矢報いる為の証拠集めは二つ返事でちゃんとやったし、それこそ土下座しまくりだったからね。

 土下座はもう飽きたわ…そもそもそんなに楽しくなかったけど。


「今日は忙しかったね」


「あぁ、まぁそういう日もあるさ」


 今日は割と遅い時間に混み始めたため、もうすぐ終わりの時間だってのに忙しなく動いていたからな。

 莉乃には初めての体験だし、まぁいい経験だろう。

 俺のような若造が言えることではないが、もっと社会経験を積んで社会の役に立っていただきたいな。


「でもホント、仕事中のハル君はキリッとしててカッコイイね」


「そいつぁどーも」


 仕事の時にのほほんとしていられんだろう。

 ただ真面目にやってるだけなのだが、彼女にはどうやらかっこよく映っているようだ。

 俺のことはいいからもっとほかに目を向けて欲しい。


「あぁ、着いちゃった…じゃーね、おやすみハル君!」


 何だかんだと二人で話しながら歩いていると莉乃の家に着く。長かったよとっても。


「おーうおやすみ、よく寝ろ…いや死ねよー」


「逆でしょ!?…もう!っふふ、バイバイ!」


 下らない掛け合いをしながら彼女は家に入る。


 まるで友人のような関係だが、それも悪くないと思いながら家に向かう。俺も相当甘いヤツだよなぁ…。



「あぁ…イライラするぜ…」


「…げっ」


 しばらく歩いていると、見覚えのある茶髪が現れて思わず声を上げてしまった。

 お前あの時因縁つけてきた茶髪チャラ男やないか。

 今日も学校休んでたけどまさかこんなとこで会うなんてな。


「あ!テメェ!」


 コイツは俺を見るなり大声を上げて殴りかかってきた。




「ぜぇ…はぁ…」


「何やってんだお前」


 数分後、コイツは地に伏しながら息も絶え絶えになっていた。


「うっせぇ…クソ野郎…」


 コイツは俺に散々殴りかかってきたものの、全て避けられ疲れ果てたところに一発腹パンをくらわしてやったらこれだ、あまりにも弱すぎる。

 ノリだけかコイツは。


 しかし、俺は完全に油断していた。


 緩みきった頭が、後ろから迫る気配を完全に逃していたのだ。


「全く、若いのに情けない」


 後ろから聞こえた声の正体に気付くその前に、俺の意識は途絶えた。


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