九話 一方その他は?《義母、義妹》

 私は栄渡えど 粕斗かずとの妻、来江くるえ


 先日から義理の息子である晴政はるまさ君が家に戻ってこなくなった。

 まぁ別にどうでもいいけど、変なトラブルにならないか心配だ。


 あの人と結婚したのは、あの人は稼ぎが良くお金に困らないから。

 安定した高額の収入、そこに少々でも私の稼ぎが加われば美智みさとの進学だって明るい。


 美味しいものを食べてしっかりオシャレして。

 年頃の子達と遊びに行ってコミュニケーション能力を育んで、ちゃんとした社会人になるための経験を積める。

 娘が立派に生きていけるようにするために結婚した。


 そこに愛などありはしない。ある訳がない。


 その為にわざわざあんなオッサンに身体を許し、不倫をするという危ない橋を渡ってまで結婚したというのに大きな問題が起こってからでは遅い…。

 嫌な予感がする…あの人は大丈夫と言っていたけれど…。


 あの時は女の子とセックスしていただなんて聞いて、もしかしたら''その子にお金をつぎ込んで私たちの分が減るのでは''と思ったがその様子もなく裕福な生活を送れている。


 最近、美智は晴政君が出て行ってからというもの日に日に落ち込んでいる。

 本人は気付いていないだろうが私はあの子の実はの母親。気付かないわけがない。


「傷害に未成年淫行…」


 いくら稼ぎがあってもここまでの罪なんてバレたらそれも危ぶまれるだろうし、もちろんバレない可能性の方が低い。あの子が帰ってこないのがいい証拠だ。


 もしかしたら訴えられるような証拠集めをしていたとしたら?

 彼の味方だって何人いるかわからない、そう思うとあの人が捕まる証拠が集まるのも時間の問題か…。

 考えすぎだと思いたいけど…胸騒ぎは収まらない。


 あくまであの人の妻を演じていられるのは高く安定した収入がある時だけ、無くなれば離婚したいくらいだ。しかし協議を起こされたら、離婚に足るような証拠もないので怪しい…せめて未成年淫行の証拠だけでもあれば…。


「巻き込まれて捕まるのはごめんよ…」


 言い知れぬ不安に苛まれ爪をガリガリと噛む。

 私だって戸籍上は晴政君の親だ。

 あれだけ傷だらけなのに放置をしていたなどと言われてしまえば一緒になって虐待したものとして捉えられてもおかしくない。


 晴政君に頭を下げて私と美智だけでも見逃して貰う?まさか、そんな簡単に許して貰えるわけが無い。

 つまり私が出来るのは、晴政君に全力で協力すること、美智には悪いけど協力してもらわないと…。

 そう思い私も策を練ることにした。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 お義兄にいちゃんが出ていってからしばらく経った。


 お義兄ちゃんがDVをしていたなんて正直信じられないが、義父ちちがあそこまで激昂していてお義兄ちゃんがボロボロになっていて、もしかして本当にやったのかも…だなんてすっかり信じ込んでてしまっただけかもしれない。


 しかし本人に会えなければ話も聞けない。

 あの時は咄嗟とっさに義兄ちゃんを目の敵にしてまったが、頭を冷やして考えると…。


 あまりにも一方的で聞く耳をもたなかった。


 あの時お義兄ちゃんは''やってない''って言ってたのに…。

 そう思うと冷や汗が止まらない。

 もし本当にやっていないのなら私たちは最低だ。


 お母さんは多分義父にもお義兄ちゃんにも興味が無いと最近思った。


 だって義父が、お義兄ちゃんの彼女とセックスしたと聞いた、すぐに落ち着いたと思うと有り得ない。離婚しなきゃいい?普通逆じゃない?


 結婚というのは互いに想いあっているからするもの、つまりそれが危ぶまれたり、怪しいと思うようなことがあれば離婚する話だって出てくるんじゃないの?

 私だって無知じゃない、相手が悪いことをしたという理由で離婚をすれば多額の慰謝料が貰えることだってわかる。


 でもそれをしないのは?


 わからないけど、あるとすれば義父の収入かも…。あの人お金は沢山くれるし進学だって心配ないと言っているくらいだ…。

 一度に沢山貰えるより、継続的な比較的高めの収入を選んだとすれば、辻褄も合う…と言ってもそこまで詳しくないから予想だけど。


 それより私にとってはお義兄ちゃんが本当にDVをしたのか否かだ。

 私の知る義兄ちゃんがそんなことするはずないもん。


「お兄ちゃんに謝らないと…」


 学校が終わりトボトボと歩く私の目に入ってきたのは、とても綺麗な女性と手を繋いで歩くお義兄ちゃん。


 何がなんだか理解するのに時間がかかった。


 確かに義兄ちゃんはかっこいいし優しい、だけどこんなにすぐ女の人を捕まえるなんて…。

 私は心配してるのに、自分は遊んでるの…?

 そんなことを思うとふつふつと怒りが湧いてくる。


「そんなに女癖が悪かったの?お義兄ちゃん」


 私はその背中に声を掛けた。

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