十話 義妹の謝罪

「そんなに女癖が悪かったの?お兄ちゃん」


 聞き覚えのある声が後ろから聞こえて母さんと一緒に振り返る。

 そこには、前より少しだけやつれた様子の美智みさとがいた。なにしてんの?


「ん?……あぁ、なんだよお前か…文句あるか?」


「家に帰ってこなかったのは、その人の所にいたからなんだ?やっぱりDVしてたっていうのは本当みたいだね」


「はぁー?何言ってんだオメー」


 ここで正直に言ってもいいが、俺はもうコイツの関わりたくない。

 だからもっと嫌ってもらいたいくらいだよ。そのままクソ親父と堕ちていけクソが。


「人が心配していれば、その人の家に入り浸ってセックスでもしてた?それともまたDV?」


「やめろよ、だれが母さんと…あっ…」


 母さんとそんなことしてるだなんて想像したくなくてついホントのこと言っちゃった。


「……ふぇっお母さん?」


 美智が目を見開いて素っ頓狂な声を出した。

 ついに見かねた母さんが口を開く。


「はい、私は晴政はるまさの母です。うちの子が随分と世話になったようで……」


 話の流れからコイツが義妹だと言う事も察したのだろう。

 コイツの態度についても話をしているので、母さんは目を鋭くし威嚇するような低い声で告げる。…手は繋いだままなので格好が付かない、なんならめっちゃ握ってくる。


「えっえっ…どういうことお兄ちゃん…」


「いや、今聞いただろ。この人は…俺の!自慢の!母さんだ!」


 最後の所だけ大きな声ではっきり言ってやった。

 母さんは照れたように俺の肩を叩く。


「心配だのなんだの言ってやがったが、お前俺になんて言ったか忘れたか?」


「あっえっと…その…」


 めっちゃ目が泳いでる。忘れるわけねぇよなぁ?


「クズだの死ねだの…犯罪者だの、ふざけやがって…」


「だって…お兄ちゃん…DVしたって聞いたから…」


「だから俺のことは信じません聞く耳持ちませんってか?じゃあ俺が同じことしても文句言えねぇだろうが!」


 やばい、頭に血が上っている。

 だが言いたい事は言わせてもらう。


「悪いけどな、元カノからあれが嘘だったってのは証言取れてんだよ。なんなら録音あるぜ?聞くか?あ?」


「え…うそ…」


「嘘じゃねぇよバァカ!なんなら本人呼ぶか?あぁせっかくならのぞみ 呼ぶか、アイツ相当怒ってたしなぁ!」


「…じゃあ、あたし…」


 ついに顔を真っ青にしながら震え始めた。

 そりゃここまで言えばどういうことか分かるだろ。


「残念ながら、お前らは揃いも揃ってあのクソ親父に騙されてたってこと。それに俺はもう母さんの子供に戻るから、もう少ししたらお前らとは他人な。なんなら今日からでもいいぞ」


 訴えようとしている事は伏せておくとして、母さんの扶養に入る事だけは伝えておくか。


「え…えぇ!?やだやだ!お兄ちゃん行かないで!」


「行かないでも何も、お前がそれを望んだんだろうが」


 いきなりこっちに距離を詰めてきたので後ろに下がる。母さんを後ろに庇いながら。


「違うの!あれは本心じゃなくて…勢い余って言っちゃっただけなの!ごめんなさいお兄ちゃん!」


 いきなり土下座してくるが、すぐに流される様なヤツなんぞ信用できないし、なんならもう家族としても見れなければ、人としても終わってるなぁくらいにしか見えない。


「あの時、少しでも信じる素振りさえ見せてくれれば、それだけでも心の支えになったんだ…でもお前は、俺を責めた」


「あ…あぁ…」


 顔だけを上げて、涙を流しながら言葉を紡げないコイツを無視し、俺は言葉を続ける。


「家なのに居場所がないって、どれだけ辛いか分かるか?……悲しかったんだよ、寂しかったんだよ…俺は…」


「ごめんなさい…ごめんなさいぃ…」


 ただ美智は謝ることしか出来ない。

 そりゃそうだろう、自分も一緒に俺を追い詰めておいて 行かないで だなんて…ちゃんちゃらおかしい。


「今更そんなことを言うんなら、どうしてあの時…なんで信じてくれなかったんだよ。俺は、そんなことしてないのに…」


 もはや顔さえ合わせたくないと、俺は母さんの手を引いて早足で立ち去る。



 美智は泣いていたが…俺だって涙が止まらないんだよ。

 彼女を寝取られて、散々殴られて、仲が良いと思ってた家族さえ敵に回って…どうしようもないくらいに絶望したんだ…。



 凄く…辛かったんだよ……!

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