『狂気、いかにして少女は殺人鬼となったのか?』(記事全文)

『狂気、いかにして少女は殺人鬼となったのか?』(記事全文)



「普段は物静かな子なんですけど、たまに驚くほど感情的になったり、たまに妙に大人びて見えて、すごく怖くなることがあるんです」


 これは本紙取材に答えてくれた、少女Gちゃんの担任の経験もある元小学校教師A子さんの証言だ。A子さんは二年前、少女の通う小学校で、少女のクラス担任をしていた。その年の末頃、クラス内のトラブルや教師間の人間関係で心身の調子を崩して、急な退職をしている。


「表立ったいじめみたいなものはなかったんですけど、裏では陰湿ないじめが行われている。それはおとなも子どもも。なんだか、途中で疲れ果ててしまったんです」と本当に疲れ切った様子で、A子さんは答えてくれた。

「そんなにいじめが横行していたんですか? それはGちゃんに対して?」


 近年、いじめによる十代の少年少女の自殺報道がセンセーショナルに取り上げられることも増えて、社会問題化している。やはりそこに動機が、と勢い込んで聞く筆者に対して、A子さんは小さく首を横に振った。


「いえ、私の知る限りでは、Gちゃんが特別、という印象はありませんでした。彼女には父親がいなかったので、そのことで心ない言葉を投げつけられたり、とかは私の知らないところであった可能性は否定できませんが。標的にされていたのは、別の子です」


 事件は大きく報道された。そのため、内容を知っている読者も多いだろう。

 一部では、『漢数字殺人事件』などと茶化した呼称を使う人間もいるみたいだが、そんな言葉に反して、事件のあらましは深刻である。


 名字に、一、二、三……というふうに、漢数字が入っている人間が、毎月二十四日に死ぬ。まるで安っぽい推理小説のような出来事が起こったのだ。


 まず一人目は十月、Iくんが近所の川で水死体として発見された。

 橋の下でぷかぷかと浮いている少年の姿を、近所の男性が発見した。初動捜査の段階では、事故死の可能性が高いと判断されたそうだが、欄干もある比較的浅い川で、不審な点も多く、警察関係者によると、現在は殺人の疑いを強めているらしい。Iくんは、学校では人気者の爽やかな少年だったそうだ。ほぼ同時期に、Iくんのお姉さんの死体が雑居ビルで発見されている。事件に関連性はない、とされているが、本当だろうか、と筆者の中で多少の疑いはある。


 二人目は十一月、Nくんが教室の窓から転落して、倒れているところを発見される。

 発見された段階ではまだ息はあり、すぐに救急車を呼んだものの、搬送する車内にて息を引き取った。Nくんはリトルリーグにも所属していた快活な野球少年で、すこしガキ大将気質なところもあったそうだ。筆者にも覚えがあるが、小さい頃、度胸試しとして窓の外に身を乗り出す児童、というのはめずらしくなく、数年前にも、大阪府内の小学校で似たような転落事故が起こったことは記憶に新しい。なのでこれに関しては、そういった事故の可能性もじゅうぶんに考えられるものの、聞き取り調査で、救急車を待つ間、Nくんが転落した教室の窓付近に人影を見たとの話もある。Nくんが突き落とされたということはないだろうか。


 三人目は十二月、小雪の舞いはじめたクリスマス・イブに、少年は死んだ。

 Mくんという男の子だ。

 Mくんの事件は疑いようもなく殺人で、下校中、通り魔に刺された。目撃者はおらず、犯人は分からないまま、現在にいたっている。まさに聖夜の悲劇だ。Mくんは医者の息子で裕福な暮らしをしていて、基本的には穏やかなのだが、わがままで短気なところもあったそうだ。


 そして四人目は一月、Yくんだ。Yくんは他の子たちと違って二学年下の少年で、他の被害者たちと一切関わりがなかった。石で頭を撲られて、公園で倒れているところをパトロール中だった地域ボランティアのひとりが発見したのだ。同じ学年という共通点から外れるその死を最初に聞いた時、筆者は強く違和感を覚えた。『これは計画になかったものなのではないか』その違和感は少女の遺書によって、間違いがなかったと分かることになるのだが、その真相はもっといびつなものだった。


 真相、と言っても、誰かが捕まったわけではなく、どこまでを真相と判断するべきかは迷うところではある。それほどに少女の遺書は信じがたいものだったからだ。


 五人目の少女、Gちゃんについて記していこう。

 二月二十四日、ひとりの少女が死んだ。自殺だった。それがGちゃんだ。学校の校舎の離れにある用具倉庫のボール入れのそばで、仰向けに倒れていた。毒薬を呷ったそうだ。胸には遺書を抱えていた。存在については知られていたが、その内容については捜査関係者の極秘資料として、一部の関係者を除き、一般の人間に明かされることはなかったものだ。今回、内容を知るひとりからリークがあったのだ。


 要点をまとめると、

『私には恨んでいる奴らがいる。恨みを晴らしたので、死ぬ。去年、同じクラスだったあの三人だ。あいつらを殺したことは何も後悔していない。だけど何も関係ない子まで殺してしまった。私がMくんを殺すところを見られてしまったからだ』

 という内容だ。何を恨んでいたのかははっきりとしていないが、いじめられていた、という可能性が一番高いだろう。先生の目を盗んで誰かをいじめる、なんて筆者の時代にもよくあった。あるいは先生が黙認していただけかもしれない。小学生の女の子が四人の児童を殺す。最初聞いた時、私は耳を疑った。そしてまったく信じなかった。それよりは事件に感化されて、妄想を肥大させて、自分を犯人だと思い込んだ挙句に、命を絶った。こちらのほうが、まだありそうだ。しかし筆者は第三の可能性について考えはじめている。


「お母さんとふたりで、仲はそんなに悪くなさそうでしたよ」

 こう話すのは、Gちゃんの家の近所に住む女性だ。Gちゃんは父親が事故で死んで以降、母子家庭だ。Gちゃんの死の報せを受けて、母親は半狂乱になったとも聞いている。ちなみに父親の事故は何年も前の話で、今回の件と関連はないと判断していいだろう。


「でも、ちょっと……」

 と女性は続けて、気になることを語りはじめた。


「去年くらいから、変な男が出入りしていて。明らかに一般人の雰囲気じゃない、って言うか。堅気の人間じゃない、って言ったらいいのか。再婚でもするのかな、ってちょっと思ってたんです。ひどく感じの良くない男性でした。最近はあんまり見ていないんですけど」


 この年齢不詳の男性を、仮にXをしておこう。

 筆者をこの男に疑いの目を向けている。実際にこの男が暴力団の関係者かは分からない。少女の母親がどこで知り合ったのか、本人に聞いても、「そんなひとは知りません」と冷たい答えが返ってきた。少女の母親が働いている飲食店で、同僚にも聞き込みをしたが、正体は掴めなかった。


 ただ興味深い話はいくつか聞くことができた。少女の母親は、夫が死んで以降、ギャンブルにはまりだしたらしく、日常的にパチンコや競艇に運んでいたそうだ。娘には仕事と嘘をついて、仕事が終わったあとに足を運ぶことも多かったみたいだ。ストレス発散になっていたのかもしれない。結構な額の借金もあったようだ。Xとはその辺りで知り合ったのだろうか。


 少女とXの間に、深い関係が生まれていたとしたら、少女の復讐に手を貸す、ということは考えられないだろうか。少年たちを一人一人、闇へと葬っていく謎の男。筆者はそちらの可能性のほうが大きいのではないか、と感じている。少女一人で、こんな連続殺人事件を行える、とは思えない。確か昨今、特に九十年代を過ぎてから、少年犯罪を煽情的に語る言説を増えてきてはいるが、それにしても、である。


 しかし仮にXが犯人(あるいは実行犯)だったとしても、謎めいた点は多く残っている。なぜ少女は自殺したのか。そしてなぜXは姿を見せなくなったのか。Gちゃんが毒を呷ったのは、Xの指示だったのか。少女の母親はどこまで知っていたのか。


 新たな情報が分かり次第、内容を更新していきたい。

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