花村先生には悲しい過去がある。

 花村先生と『トイレの花子さん』の話をしてから、急に熱が冷めたかのように四原はその話をしなくなった。彼の熱はまったく冷めていなかったのだが、それが分かるのは、このすこしあとのことで、いったいどうしたんだ、とその時の僕は彼の突然の変化に首を傾げることしかできなかった。

らしくないな、と。


「どうしたんだろう。四原くん」

 僕の席まで来てそう言ったのは、六風だ。六風は幼稚園の頃から知っていて、家も近所の幼馴染なのだが、ちいさい頃からそんなによくしゃべる関係ではなかった。小学校に入ってからもクラスは違うことがほとんどで、距離感が一番近かったのは、もしかしたら小学五年生のあの時だったのかもしれない。四原という存在が、僕と六風の距離を近付けたのは間違いない。でも素直にそれを認めたくない自分もいた。四原と出会わなければ、僕と六風の関係もまったく違うものになっていただろうから。


 緩やかに思春期の入り口へと足を踏み入れていく中で、当時の僕は女子と会話する機会はほとんどなく、その中での唯一の例外が、六風だった。


 六風が男女分け隔てなく、気さくに話し掛ける性格だったから、僕もあの頃特有の、女子生徒に対する緊張感を持たずに会話することができた。たぶん僕は、六風に、恋愛感情か、それに近しいものも抱いていたはずだ。だから四原と六風と一緒にいるのは楽しかったが、ふたりが仲良さそうに話しているのを見ると、ちりり、と胸が痛むような感覚を抱いていたのだ、これも、たぶん。


 何度も、たぶん、と付けるのは、僕が自覚できていなかったからだ。


「四原?」

「うん。なんか最近ちょっと素っ気ない感じが」

「そうかな……、でもいつもそんな感じだろ、四原、って」


 その時は授業の間の休み時間で、四原の姿は教室になかった。休み時間にどこかにふらっと行ってしまうのは四原の癖みたいなもので、めずらしくもなかった。


「いや、そうだけど、でも、そうじゃなくて。……っていうか、四原くんもそうだけど、私に何か隠してるでしょ」

 と僕を責めるように、六風が言う。


 周りは僕らの会話を気に留める様子もなく、ゲームの話やきのう見たバラエティ番組の話をしている。男子と女子の会話が周囲から冷やかされる、というのは、この当時よくあったことだが、僕や四原に限らず、六風はクラスの全員と気軽にしゃべっていたので、そういう状況になることはなかった。心配すべきは僕自身のことより、六風のほうだったのかもしれない。あくまでいまになって思うことだが、その態度によって、六風は一部の女子から敵意を向けられていたような気もする。考えすぎだったなら、それでいいのだが。


「何も」

 四原から、『トイレの花子さん』の一件を隠すように言われていたわけじゃない。それでも言わずに黙っていたのは、四原と僕の間にあったやり取りをべらべらしゃべるのは、すこし格好悪いような気がしたからだ。なんだか暗黙の中にあった約束を破るみたいで。


「本当に?」

 六風は疑うようなまなざしで僕を見たが、それ以上、追及しようとはしなかった。ちょうどその時、四原が教室に入ってきたからだ。冷たい反応が返ってくる、と分かる四原に、さすがの六風も、強引に聞く度胸はないみたいだった。


 放課後になると、いつもなら四原は僕か、あるいは何か面白い話でもないか、と六風に女子の間で流行っている怪談や都市伝説を聞きに行っているのに、その日はすぐに教室からいなくなってしまった。


 仕方ないので僕も帰ろうと、廊下を歩いていると、

「おぉ、山岡じゃないか」

 と職員室の前で、担任の水川先生と会った。


「先生」

「聞いたぞ。花村先生から。『あの子たち、トイレの花子さんを探しているようですよ』って。都市伝説とか、そういうのは物語としては面白いのかもしれんが、あんまり信じ過ぎないように、な」

 と快活に笑う。


 水川先生はオカルト的なものを一切信じていないひとだ。極端な話をすれば、心霊スポットで一晩寝たり、事故物件に住んだり、とかも平気でできるようなタイプの。実際にそんなことはしてない、と思うが。元高校球児で暑苦しい体育会系の雰囲気が僕はすこし苦手だったのだが、何故か性格がまったく正反対のはずの四原とは気が合うのか、やけに仲良さそうに話しているところを見る。不思議な組み合わせだからこそ、やけに印象に残っている。


「先生は信じてないんですか」

「もちろん。……って言うか、山岡、俺がそう言うの、分かってて聞いただろ」

「まぁ。でも花村先生が実際に体験してるわけですし」

「深夜三時に出会った、って奴だろ」

「知ってるんですか」

「あぁ知ってるよ。一時、先生たちの間でも、噂になったからなぁ。俺ももちろんその頃にはここの先生だったから。だけどあれは花村先生の見た幻覚だよ」

「なんで、言い切れるんですか」

「だって……、あぁ、ここではやめとこう。ちょっと場所を変えようか。聞かれてしまったら、困るからな」


 水川先生が僕を連れて向かったのは、理科室だった。職員室からそれほど遠くなく、誰もいない場所、ということで、ちょうど良かったのだろう。九つほど六人くらいが座れる灰色の長机が並ぶ理科室だ。僕は実験とかがあまり好きではなかったので、理科室には苦手意識があった。あとなんかちょっと怖いイメージがある。理科準備室で夜な夜な怪しげな実験をしているんじゃないか、とか。人体模型とか走り出しそうな気もする。うちの学校には、人体模型なんてなかったけれど。勝手なイメージでしかないのだが、ついつい考えてしまうのだ。きっと水川先生に言えば、笑われてしまうだろうけど。


 水川先生が窓を開ける。外から入ってくる風が、ふわり、と膨らませるようにカーテンを揺らす。


「いやぁ、風が気持ちいいな」

「寒いです」

「そうか?」

「僕は先生みたいに筋肉がないので」

「俺もそんなに筋肉があるほうじゃないぞ」それがスポーツマンの中では、というのは、聞かなくても分かった。「山岡は何かスポーツをしたりする気はないのか。スポーツ少年団に入るとか。たとえば野球なんか楽しいぞ」

「うーん。みんなで何かやるのは、苦手です」

「そうか。じゃあ個人競技のほうがいいか」


 そういう意味じゃなくて、と言おうとして、僕はとっさにその言葉をのみ込んだ。この話を続けると、長引きそうな気がしたからだ。だから、「あの、花村先生のこと」と僕は先生の話を軌道修正することにした。


「あぁそうだったな。……山岡は、花村先生にどんなイメージがある?」

「花村先生ですか……? 優しくて、のほほんとしていて、あとちょっと不思議な先生、ってイメージがあります」

「そうか。まぁたぶん他の子に聞いても、おんなじような答えが返ってくるだろうな、って思う。独特な雰囲気があるのは間違いないからな。みんなから好かれる、まさに良い先生って感じだ。いまは、な」


 水川先生の最後の言葉には、わずかに言いよどみのようなものがあった。


「いまは?」

「むかしは結構、怖くて。厳しい先生だったんだ。子どもたちにも、俺たちみたい同僚の先生も素っ気なくて」

「信じられない……」

「そうだよな。俺もいまの花村先生しか知らなかったら、絶対に信じなかった、と思うよ。もちろん悪い先生だったわけじゃないし、その厳しさに救われた児童だっていたはずだ。悪いことも見逃さず、ちゃんと注意するひとだったから、な。ほら、お前たち女子トイレに入ったんだろ。そういうのも、もしむかしの花村先生だったら、もっと強く注意して、絶対に笑い話になんかしなかったはずだ。俺のところにも、文句が来てた、と思うな」


 僕は花村先生に厳しく叱られる自分を想像してみた。やっぱり優しいイメージが先行して、どうもうまく頭の中でその絵を描くことができない。


「そうなんだ……」

「あぁ、ちょっと話が脱線しちゃったな。まぁそんな花村先生なんだけど、ある出来事を境に、あんな感じの、別人のように変わってしまったんだ……」

「変わってしまった、って?」

「娘さんが自殺したんだ。この学校で、さ」

「先生の娘さん……」自殺。その言葉がぐるぐると頭の中をかけめぐる。「うちの学校の生徒だったの?」

「いや厳密には卒業生だな。彼女が死んだのは、中学二年生の、時期はいまのような秋の終わり頃の寒い日だった。……俺も彼女とは何度も話したことがあるから、聞いた時は、本当につらかった。良い子だったよ。にこにこと笑顔を絶やさない子で。もちろん笑顔のない子が悪い、って言いたいわけじゃないんだけどな」

「その、もしかして……死んだ場所、って」


 嫌な予感がした。


「トイレだよ。三階の」

「花子さんの、いた。……でもなんでそんな場所で」

「これは憶測でしかないし、他の人には、特に花村先生には言わないでくれ。……復讐だったんじゃないか、って俺は思ってる」

「復讐?」

「あぁ母親への復讐。俺も小学生の頃の彼女を知っているが、明らかに花村先生とはわだかまりがあって、お互いに口には出さなかったが、ふたりの間にある険悪な関係は見て取れた。中学生になって、さらに悪化した」


 平然とこんな話を僕に語る水川先生を、当時の僕は距離感の近い良い先生のように思っていたが、おとなになったいま、改めて振り返ってみると、受け持つクラスの児童にこの話をできる水川先生はかなり問題のあった先生だったのかもしれない。すくなくとも気軽にはできない。僕自身の考え方が変われば、見えていた世界も大きく変わってくる。


「だから復讐?」

「お母さんの職場で死んでやろう、ってな」

「でも、いくらなんでも」

「まっ、考えすぎだったら、一番いいんだけどな」

「じゃあ花村先生がそのトイレで見たのは?」

「うん。娘さんが死んでから、まるで別人のようになってしまったからなぁ。もちろん子どもが死んで、いままで通り変わらず、ってひとのほうがめずらしい気はするから、それ自体はおかしくないんだが、あの時の変わりようは、ちょっと異様だったから。トイレで、『花子さんを見た』って話を聞いた時、あぁ、幻覚を見たんだな、って思ったよ。幽霊を見た、って言ってるひともいたが、幽霊なんかいないからな。あれは幻覚だよ」


 それはもう幽霊って言ってしまえばいいんじゃないだろうか、と思ったのを覚えている。他のひとならば、こうやってかたくなにオカルトを否定する水川先生のようなタイプでなかったら、懐疑的、否定的であったとしても、幽霊でも見たのかな、と表現してくれたような気がする。


「じゃあ、花村先生が見たのは、娘さんの」

「あぁ、きっと幻覚だよ」

「花子さんじゃなくて」

「娘さんの、幻覚だよ。あれは、きっとな」


 幽霊の正体見たり枯れ尾花、という言葉がある。水川先生はまるで、そんなすっきりとした解決話のように語っているが、別に論理的にすっきりできるような話でもなかった。だって僕からすればそれは幽霊で、花村先生が超常現象を見たことには変わりないのだから。


「そう、だから。あんまり花村先生の話を信じ過ぎちゃいけないぞ」

 と水川先生は話を締めくくった。


 水川先生との話が終わったあと、僕は家に帰る前に、なんとなく足が三階のトイレに向かってしまった。そうか、ここで花村先生の娘さんが……、そんなことを考えていたら、ふいにぼんやりとひとりの女の子の姿が浮かび上がってきた。当時の小学生の僕からすれば、年上の中学生の女の子に対して、『女の子』という表現はすこしおかしいのだが、いまの僕からすれば、中学生は、女の子でしかない。僕はもちろん花村先生の娘さんの顔なんて知らない。なのに、その私服姿の中学生を見て、間違いなく花村先生の娘さんだと思った。


 浮かび上がった少女は泣きながら、何かをつぶやき、女子トイレの中に入っていった。何をつぶやいていたのかは分からない。


 僕がつられるようにして、女子トイレに入ろうとした時、


「何してるの」

 と横から声がした。


「六風……」

「ねぇ、もしかしていま女子トイレに入ろうとしてなかった」

「あっ、いや」

「いくらなんでも駄目だよ。ばれたらみんな、ってか、クラスの女子全員から嫌われちゃうよ」と六風の口調はすこし怒った感じだ。

「い、いや、違くて」

「何が違うの」

「実はいま女子トイレに、生徒でも先生でもないひとが入っていった気がして。変質者だったら大変だから。ちょっと確認しようと」


 これは嘘じゃないから、言っても問題ないはずだ。六風は悩んだ素振りをすこし見せた後、


「うーん……、じゃあ、私が見てくる」

 と言った。


「危ない、って」

 これは本心からの言葉だ。


「もし危なかったら、叫ぶから、ちゃんと助けてね。その時だけは入るの、許すから」


 そう言って、六風は女子トイレの中に入っていった。


 すぐに出てきて、

「誰もいなかったけど」

 嘘つき、と僕を批難するようなまなざしを向けた。


「う、嘘じゃないよ。もしかしたらあれが花子さんなのかもしれない」と僕は話を逸らすように言った。「だってここは、三階の女子トイレだから」

「そっか。そうかもしれないね。……でも、花子さんってトイレを出たり、入ったりするの?」

「よく分からないことをするのも、怪異じゃないか」

「うん。まぁ、それはそうだけど」


 もしも他の女子だったなら、こんなとって付けたような言葉は通用しなかったはずだ。だけど六風は周りの女子と比べても素直な、悪く言えば、信じ込みやすい性格だった。だからこそ怪異やオカルト的なものに踏み込んでいこうとする僕や四原と一緒に行動できているのだろうけど。良くも悪くも、のめり込みすぎてしまう性格なのだ。


「そうだよ、そう。それに変質者なんていないほうがいいんだから」

「うーん。まぁ」と言いながらも、六風は僕のはぐらかしたような言葉に納得しきれていない様子だった。

「そう言えば、六風はなんで残ってたの?」

「ちょっと図書室で本を読んでたんだ。終わったから帰ろうと思ったら、山岡くんがいたから」


 うちの小学校の図書室は本の蔵書数もすくなく、利用するひとはほとんどいない。そんな中で六風は結構、利用していたようだ。正直なところ、僕も六年間のうちに、一、二回しか入ったことがなく、どんな場所だったか、まったく記憶にない。


「そっか。じゃあいまから帰るところなんだ」

「うん」

「じゃあ、い、一緒に、帰ろうか」


 緊張して、言葉を噛んでしまったのをよく覚えている。僕に限らず、あの年代の少年の多くがそうだったように、異性を意識して、気取ってしまい、そして結果として失敗に繋がってしまう、ということを繰り返していた。特に六風の前では。他の女子としゃべる機会がなかっただけなのもあるが。


「うん。帰ろう、帰ろう」と六風が嬉しそうに言う。

 六風と横に並んでの帰り道、夕暮れの光が辺りを緋色に染めていた。


「なんか、この空を見てると、あの時を思い出すね」

「あの時?」

 僕は分からないふりをするような相槌を打ったが、六風は見抜いていたのだろう、


「分かってるくせに。ほら、私が低学年の時、クラスの男子にからかわれて、泣いちゃったことあったでしょ」

 と続ける。


「そんなことあった、っけ」

「あっ、覚えてるくせに」

 とほおを膨らませる。


 当然、覚えてはいたのだが、僕は知らない振りを通すことに決めた。

「最近、もの忘れが酷く、って」

「おじいちゃんみたいなこと言わないで。その男の子に、『そんなこと、やめろよ』なんて言ってくれて、私、嬉しかったな」


 あの時の僕の声は震えていた。足も震えていた。そのくらい緊張したのを覚えている。彼女をからかったクラスメートは普段からそう悪い奴ではなく、ただちょっと調子に乗ってしまっただけで、「悪かったよ」と僕たちに謝ってくれた。そういう奴だと分かっていたから、注意できた、という側面もある。たぶんガキ大将みたいな奴が相手なら言えなかったし、言わなかった。そして声も足も震える自分が情けなくて仕方なかった。


 その帰り道、ふたり並んで歩いて見た空が、こんな色だったのだ。空の景色までは忘れていたのだが、六風が言うのだから、そういう景色だったのだろう。


 なんとなくこの会話のあとから気まずくなってしまって、僕たちはお互い黙って歩くようになった。やっぱり異性を特に気にしはじめる年頃だったのだろう。あの頃の僕たちは。彼女の家が近付いてきたところで、僕たちは別れた。


 家に帰ると、母が言った。


「さっき、同級生の子から電話があったよ」

「誰?」

「えっと、名前なんだった、っけ。あの転校生の子」

「四原?」

「あっ、その子その子」

「何の用だろう」

「電話でもしてみたら」

 と母が言うので、僕は四原の家に電話を掛けてみた。もちろん当時はスマホもなければ、携帯も普及していない。だからお互い掛けるのは、相手の家の電話だ。誰が電話に出るのか分からないところに、ちょっとした緊張感があるのだが、四原の家に掛ける時だけは安心できた。絶対に四原が出るからだ。四原の家族が出たことは一度もない。


『はい、もしもし。四原です』

「あっ、俺。山岡だけど」

『帰ってくるのが、遅いな。寄り道でもしてたのか』

「いや実は、水川先生と話してて」

『水川先生?』


 予想外の名前だったからか、四原は不思議そうな声を出した。僕はもう興味も薄れてるだろうな、とは思ったが、水川先生から聞いた話を教えることにした。すると思いのほか、食い付いてきたので、僕のほうが驚いてしまった。


『……うちの学校の花子さんの正体は、花村先生の娘さん、ってことか。でも、じゃあなんで、花村先生は娘の幽霊を見た、って言わず、花子さんなんて言い方したんだろう。つまり、娘とは違う何かを見た、ってことか』

 と電話越しに僕がいることも忘れて、四原は悩み出してしまった。


「きっと、花村先生、子どもが死んだばかりでおかしくなってたんだよ」

『本当に、それだけなのかな。……僕にはどうしても、そうは思えないんだ。たぶん花村先生は何かを隠しているんだと思う。隠しているんじゃなかったら、あえて何かを言ってないか。そのどちらか』

「もしかして、こうかな、って答えが、四原にはあるの?」

『いや、そこまでは全然分からない。でも知りたいし、それを知るためのヒントを、花村先生は出してくれてるんだ』

「ヒント? 四原だけに? あのあと、何か話したの」

『違うよ。僕たちふたりが話していたあの時に、だよ。僕たちが実際に、トイレの花子さんと会うために、どうすればいいか』

「えぇ、そんなこと言ってた、っけ」


 そこまで聞いても、勘の悪い僕は、四原が何を言っているのか、さっぱり分からなかった。いや、当時ただの小学生だった僕にそのヒントを察しろ、というほうが無理がある。四原が特別だっただけだ。


『知りたいだろ?』

「うん」

『じゃあ、僕に協力してくれ』

「何を」


 協力、と言われて、僕は戸惑ってしまった。


『学校に忍び込むんだよ。僕たちで。深夜三時に』


 この一週間、らしくない、と僕は四原に対して思っていたのだが、そんなことはまったくなく、四原はいつも通り、四原のままだったのだ。こういう強引さも含めて。

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