第5話 竜国の王妃

 それから私は、アイザックと一緒に竜の国へと渡りました。


 新天地での生活は大変だったけど、彼が支えてくれたおかげですぐに慣れることができた。


 竜国の人も、人間の私を歓迎してくれました。

 優しくて良い人たちばかりです。



 生まれ故郷の国が滅亡したという報せが竜国に届いたのは、それから数か月後でした。


 守護竜が消えたことにより、天変地異が起きたのです。



 山が火を吐いて、王都は灰燼かいじんしたらしいです。


 それまでは黒竜様が大地の怒りを抑えていたけど、守護竜がいなくなったことで何百年も封じられてきたものが一気に爆発したのが原因みたい。


 あの山の地鳴りは、噴火の予兆だったようです。


 王族は誰一人として助からなかったとか。


 あの子爵令嬢も、王太子と一緒に大地に返っていったそうでした。

 あんなことをされたけど、それでも少しは思うところにはあります。

 遠い竜国から、祖国の鎮魂を祈ることにしました。



 ただ、救われた命もあります。


 私の実家の侯爵家やそれに近しい人たち、それに守護竜様を信仰していた民やその他希望者は、天変地異が起きる前に竜国へと亡命することができました。


 これもすべて黒竜様たちが必死に民衆に声をかけて、移民する人を募ってくれたおかげです。



 同じころ、黒竜様であるアイザックが正式に竜国の王として即位しました。


 その日、私は竜国史上初の人間の王妃になった。



 人間の私が竜国の王族になれるのか心配でしたが、それは杞憂だったようです。


 私の竜好きがすぐさま知られてしまい、竜国の民だけでなくアイザックの家族も私を好意的な目で受け入れてくれました。



「ただ、一つだけ心配があります」


「奇遇だな。俺も一つだけ心配があるぞ」


「あれ、アイザックが心配事とは珍しいですね。どうしたんですか?」


「この際だからぶっちゃけて聞いてしまうが、ルシルは俺のことをどう思っているんだ? 研究対象の竜としてしか見られていないんじゃないかと、最近少し自信がなくなった」



 そういえば難民の受け入れだとか、結婚式の準備だとかで忙しくて、二人の時間がまったく取れていなかったね。


 わずかな癒しの時間も、竜の姿のスケッチについやしてしまったから、勘違いさせちゃったかも。

 もう少し人の姿の時にも甘えておくべきだったか。

 


「そんなこと考えていたの……じゃあ、研究対象ではないと、これならわかる?」



 研究対象にキスをする研究者はいないよね。


 それに、普段はやられてばっかりだったから、たまには私からしてみたかった。

 これはいつものお返しです。


 しばらくしてから顔を離すと、人間の姿のままのアイザックが頬を染めていた。まさか私からするとは思わなかったんだろうね。なんだかかわいい。


 竜の姿にも同じことをしたら、同じように頬が朱色になるのかな。今度実験してみよう。



「それで、ルシルの心配ってのはなんだ?」


「心配というか、問題があります」


 竜の国とはいえ、王族に嫁いだのです。

 私は、跡継ぎとなる子供を産まなければならない。


 はたして、人と竜との間に子供はできるのか。



 その答えはすぐさま結果として現れていたのですが、私がそれに気がつくのはもう少し先のことでした。

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