都合の良すぎるアカウント


『先日、SNSで他作家の書かれるキャラクターともリュウを絡ませてみたい、とおっしゃっていましたよね? ならば、実在の人物と絡むというのもありではないかと考え、思い切ってこのメッセージを送信した次第であります』


 そういやそんなこと書いたな。キャラクターの掘り下げになるかなと思いつきで言ったことなんだけども。


『初めて作品を読んだときからリュウが大好きです。他を寄せ付けない圧倒的な戦闘能力。あまり大きくない身体からは想像もできないような筋肉のつき方。自分が強いことを自覚し、自信に満ち溢れた言動。それでいて周りの女子からのアタックをその天然ぶりではねつけ、事件に巻き込まれるたびにハーレム要員を増やしていくその胆力さ。他にも、好きなところはキリがありません』


 おいおいまじかよ。生みの親の俺だってここまでは書けんぞ。

 リュウは俺が小説投稿サイト『かくひろば』で今更新している小説の主人公だが、ぶっちゃけありがちなキャラだ。もちろん独自性とか色々考えてキャラ作りはしているが、転生チートの流行りに乗っかってるだけと言われると、否定できない。


 だから、主人公を大好きと言ってくれるのは作者冥利に尽きるけれども、そんなに?感は否めないのだ。


『わたしは強い男性が大好きです。強ければ強いほど好きです。最近はバトルものとかの現実離れした強さじゃないと魅力を感じないようになっていて、正直さすがに自分でもどうかと思ってるので抑えようとしてるのですが、それでもやっぱり好きです』


 リュウは男性キャラである。そのリュウといちゃいちゃさせたいのだから、このメッセージの送り主は女性だろう。

 ……とすると、やっぱりこの好きは恋愛の意、なのか?


『昨日はリュウのファンアートを見ながら寝たら、リュウにラッキースケベされる夢を見ました。あの夢が現実になってほしいと本気で思っています。報酬は言い値で出します。お金以外を何か望むなら、わたしのできる範囲でなんでもします。よろしくお願いします!!!!!れ!!!』



 『!』をたくさん打ってたら『れ』が入っちゃうの、本当にありがちな誤字じゃん。

 このメッセージの送信者は、それほどまでに興奮してこんな文面を打ったのだ。



 ――やっぱり思い返してみても信じられねえ。


 新手のスパムとかじゃないよな?


『わかりました。……わたしの方こそ、急に失礼しました。実は、リアルで嬉しいことがありまして、つい興奮して勢いでメッセージを送信してしまった次第です』

 返信を開いて、前言撤回する。

 いや、スパムがこんな丁寧な返事をするわけ無いな。しかもつい数分前に。


『ですが、リュウが大好きな心に嘘偽りはありません。三日野人みっかのひと先生にわたしとリュウとのいちゃいちゃを書いていただきたいというのは本心です。勉強が何も手につきません』

 勉強というと、まいひなさんは学生なのだろうか。俺と同じだ。もちろん年上かもしれないけど。


 ちなみに三日野人みっかのひとというのが俺のペンネームである。

 本名の下の名前を主人公にして、名字をばらしてペンネームにしてるとか、なんで俺はWeb小説にそんなに身売りしてるんだろうと時々思う。


 でもハマってるんだから仕方ない。

 書いて感想をもらえたりすると嬉しいし。


『無理にとは言いませんが、是非依頼を受けていただけないでしょうか? よろしくお願いします』



 う〜ん……


 俺はスマホを持ったまま、ベッドに大の字になる。


 面白そう、とは思う。

 夢小説なんて書いたこともないが、もしかしたらいちゃいちゃ描写の練習にはなるかもしれない。


 異世界ハーレムでは、都合いいハーレムを面白く書くのは必須の技能だし。



 でもいかんせん謎が多い。


 思いっきり男性読者向けの、枠にピッタリはまった転生チートハーレムであるこの作品を熱心に読んでくれている女性読者の存在がまず謎だ。


 

 スキル『パワー』で怪力無双 〜史上最強のチート能力をもらった転生者、1人が好きなので魔王プレイしてるのに、部下の美少女たちが離れていかない〜


 

 何しろこの長文タイトルである。長文好きでは無いが、こうした方がPV増えるんだから仕方ない。

 でもこのタイトルで読みに来るのは、Web小説のメイン読者層とされる中年あたりまでの男性だろう。女性の、しかも学生さんが、このタイトル見て面白そうとなる気はしない。


 そして読んでくれて、熱心な感想を頂いてるどころか主人公といちゃいちゃしたいだなんて。

 そんな都合の良すぎるハーレム要員みたいな女性、現実に存在するのか?



 待てよ、まいひなさんが女性かどうかなんてわからないぞ。

 思い返して、俺はメッセージアプリからまいひなさんのSNSをたどって、アカウントを開く。


 

『まいひな@maihina 高校1年 空手女子』


 さすがに今どき堂々SNSでネカマやるような人も少ないだろう、女子というのは一旦信じよう。

 というか高1ってことは同い年じゃないか。


 SNSのつぶやきを少しさかのぼってみるが、オタク感の無い投稿ばかりだ。


「キラキラしてんな……」

 思わず声が漏れる。


 いわゆる映えスポットで撮った自撮り写真(ただし顔は隠している。今の陽キャはプライバシーにも関心があるらしい)とか、最近のドラマの話題とか。

 そんないかにも陽キャな内容や、習っているらしい空手の話題に混じって、唐突に俺の小説の感想が入ってくるのがあまりにも場違いだ。


 しかもWeb小説の読者というのは普通何作も並行で読んで感想をつぶやくものだけど、まいひなさんは俺の小説のことしかつぶやいていない。さらに感想の大半がリュウについてのもの。



 謎が深まる。

 なぜこんなオタクとは縁遠そうな、住んでる場所の違うような人間が俺の小説にたどり着き、ドハマリしてるんだ?



 ――ん?


 その時、ある投稿でスクロールしていた俺の右手親指が止まる。

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