第13話 屋上男女二人、なのにじゃんけん

「今日もずっと眠そうだったけど、なんかあったの?」


 翌日の教室。


 赤上の言葉を適当に誤魔化す。


 一限から四限までしっかりと睡眠を取り、多少体調が改善されたものの、硬い机の上で突っ伏していたから体はガチガチに固まっていた。


「やあ亜黒氏ぃ! 眠そうだね、僕の膝枕が必要かな?」


「……結構です。ちょうど呼びに行こうと思ってたところでした」


「九死に一生ってやつだね」


「違います。一回辞書引いてください」


 僕の顔を無理に覗き込もうとする緑色さんを押しのけて席を立つ。 


 机の前にかがむ赤上が穆たちを見上げている。きょとんとして瞬きの回数が多い。


「ああ、前に相談に乗ってもらった人だよ。おかげさまで今は不仲だ」


「へー、実在したんだ」


「今ひどいこと言わなかった?」


「亜黒氏ったら冗談が好きなんだからー、僕らはヒーロー友達さ! 他の誰より固ぁい絆で結ばれてるんだよっ! さっ、行こうか」


「虚言も大概にしてください。ごめん赤上、ちょっとじゃんけんしてくる」


 満面の笑みを浮かべて僕を引きずる緑色さん。教室を出る間際に見た赤上の表情はどこか陰っている、というか僕を睨んでいた。


「おい緑色さんのせいで唯一の友達から不審がられてるんですけど」


「友達? へえ……かわいそうだねあの子」


「僕が友達だと一方的に思ってるだけと? 揃いも揃って言いたい放題言いやがって!!」


「そういう意味じゃないんだけどなあ、まあいいや」




 屋上へ出る扉はない。緑色さんが意味もなく蹴破ったから。


 『侵入禁止』の張り紙があるだけで先を行く彼女に続いて僕もルールを破る。


 彼女の幸運をもってすれば見つかることなんて有り得ない。赤外線センサーの張り巡らされた金庫でさえ悠々突破するだろう。


「なんで屋上なんですか」


「雰囲気あるから」


「ああはい」


「僕はとても惜しいと思ってるよ。君が他の僕に顎で使われてる現状に。君ならもっと他にやるべきことが、やれることがあるんじゃないか?」


「急に何の話ですか」


「勧誘してるのさ。僕なら小間使いになんか絶対に使わない。諦めてくれるのなら僕は今すぐにでも叶えてあげる、なんだって、不可能さえ可能にしてやるさ」


 悪くない話だ、一昨日の僕なら跳びついていたかもしれない。


「では諦めるので先輩の仲間になってください」


「ははーん、これは勧誘失敗ってやつだね? いいよ、諦めるまでいつまでも付き合ってあげるとも」


 蝉の音と生徒の声がすうっと消えた。


青空がコンクリートの床に溶けていく。


 一つの足音が近づく。




 お互いに両手を突き出し、声を揃えてじゃんけんの台詞を叫ぶ。





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