第9話 サイドM(無色)

「白墨くーん、どこか行っちゃったんですかー?」


 屋上には教師が数名いらっしゃるだけで、他に人影は見当たりませんでした。


 せっかく飲み物を買ってきてあげたというのに席を外すなんて、それなら一言連絡してくれれば良いのに!


 よく知った教師の方々は階段ダッシュで息を弾ませる私に見向きもせず、呼びかけに反応することもなく、ある場所を取り囲むようにして話し合われています。


 扉がどうとか、これは生徒がやったに違いないとか。


「どういう意味ですかね?」


 ぬるり。


 腹の奥底が冷えるような、冷たい何者かが横切った感覚に襲われます。


「皆様皆様、雁首揃えて何を考えこんでいるのでしょうか? 不思議で仕方がないのですが――この式彩三色に任せようとは思わないのでしょうか?」


 私は勢い良く振り向きました。集まっていた教師の方々も同様に視線を彼女へ向けます。


 そこにいたのは『私』に違いありません。


 よく知った体格と顔。


 異なるのはその表情が冷淡で、言葉も淡々としていて、髪は真っ青、腰あたりまで伸びきっていることでした。極めつけは鹿撃ち帽とトレンチコート。


 ある職業に就く人間が好んで身に付けており、結果その職の象徴となった衣装です。


「探偵……」


 息を殺しながらも思わず呟いてしまいます。透明人間だから聞こえるはずないのに。


あの私ならば見つけてしまうのではないか、とよぎってしまいます。


 青色はあらゆる事件における問題解決能力を有しています。


 それは『私を元通りにする事件』を解決してしまう素養を持つということです。


 この場に居座れば『式彩三色は三人ではなく四人に分かれたという事件』が解決されてしまうかもしれません。


 未だに扉前から退かない青色の隣を通り抜けようと、


「ここには『私』が二人いらしたのですね。それも入れ違いで把握していない……いえ片方は知った上で動いていますね。姑息です。『私』であろうというのにここまで愚かとは」


 きっ、聞こえないふり聞こえないふり!


「あとで問い詰めなくてはいけませんね……あら。あらあらあらららららら。もう一人はまだここにいらしているのですね」


「っ……!?」


 なりふり構わず走り抜けました! 少し青色に当たったかもしれません、気付かれたかもしれません。それでも良い、あのまま私の正体に勘付かれるよりはずっと良い!


 青く、冷淡な髪を持つ私はセオリーを知りません。


 一目で事件のあらましが――ワイダニットもハウダニットも分かってしまうのです。


「あら、残念。もういなくなっちゃんたんですね」

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