第16話 家の便利機能は108あるぞ

「花様と一花様は生き生きとして楽しそうでござるが(もぐもぐ)、一殿は(パリパリ)……なんかこう(もぐもぐ)、大丈夫でござるか?(ペロペロ)」


 ペットの柴犬がソファに寝転びながら俺の心配をしている。


「……大丈夫に見えるか?」

「いやぁ(もぐもぐ)、1週間で随分やつれたでござるなぁ(パリパリ)。駄目でござるよ? ご飯はしっかり食べなきゃ元気が出ないでござる(ペロン)」

「……うん、そうだな。お前は食べ過ぎだな。食べるか話すかどっちかにしろ」


 ソファの上でポテチを食べないでほしい。

 この犬、1週間でまた太ったんじゃないか?


「チョ〜コちゃん、ちょっと行儀、悪いよ?」

「!? はい、すみませんでござるっ!」


 花ちゃんが言うと、シュバッと素早く起き上がり床で待機の姿勢になる犬。


 この犬、俺の言うことは聞かないくせに。

 飼い主のクソニートに似てナメてやがる。



 1週間の異世界旅行を終えた俺達三人は、俺の魔法を使って今は我が家へと帰宅している。


 いや、旅行じゃなくただの外出か。

 ちょっとコンビニ行ってくる、的な軽い感じだしな。

 毎日頻繁に帰ってきてたし。

 家を出た初日の昼には一回帰ってきてたもんな。


 いや普通に考えて、魔力を得て異世界仕様になったと言っても9か月の赤ん坊をね、連れてずっと森を探索とか野宿とか色々ないでしょ。


 と、旅行前にそんな感じでどうしたもんかと悩んでいたら気づいてしまったのだ。

 この新築庭付き一戸建てが持っている便利機能に。


 実はこの家はこちらの世界で言うところの魔道具化していた。

 異世界ものではお馴染みの魔道具。

 作品によっては遺物とかアーティファクトだったり色々言い方がある。


 俺達がこの世界に来て何故か魔力を得たように、この家自体も俺達と同じように魔力を得ていたようなのだ。


 魔力を得た家は魔道具となり、様々な便利機能が追加されていた。

 そしてその所有権は俺にあるのだ。

 確かに家と土地の名義は俺の名前で登録されてあるしね。


 その便利機能の一つに、どこにいようといつでも家に帰れる玄関扉を出す、というものがある。


 要はどこでもドアだ。

 旅行前に一度、花ちゃんがこの世界の魚を食べたいと言い出し無謀にも何も考えず海へといかだで繰り出した事がある。何故か俺一人で。


 案の定、海の魔物に襲われ軽く遭難して死にそうになったわけだが、その時に家に帰りてぇと願ったら目の前に家の玄関扉が現れた。


 現れた扉を開けて入るとそこは家でしたというわけだ。

 ちなみに、一度訪れた事のある場所なら玄関を出る時に願えばそこに行けたりする。


 この機能のおかげで赤ちゃん連れの旅行も可能になり、毎日いっちゃんのお散歩がてら異世界旅行をしているわけだ。


 他にも便利機能はたくさんありどれもチートっぽいので物凄い助かっている。




「で、この1週間、異世界を実際に歩いてみてどうでござった? もう街には着いたんでござろう?」

「いや、それがなぁ。色々イベントが起きて……。いやいや、起きすぎだよ! この世界エンカウント率高すぎだろ! クソゲーかよ!」

「あはは、なんかいっぱい出てきて退屈しなかったねぇ! 異世界まっしぐらって感じで楽しい!」

「あー、主が言っていた花様の役割ロールでござるか。確か主人公の役割ロールでござろう?」

「そう、それだ! なんなん主人公て? 役割ロールとか決めたやつ頭悪いだろ! イベント起こせばいいってもんじゃないんだぞ!」

「相当キテルでござるなぁ(もぐもぐ)」



 巨人に襲われた後森を奥へ奥へと進んでみると、あっちからこっちから出るわ出るわ魔物や魔獣のオンパレード。


 しかもどいつもこいつも何故か俺を狙って一目散に駆けてきやがる。

 終いには異世界名物ドラゴンさんまでやってきて俺を喰おうと目をギラギラさせて襲ってきたのだ。


「ど、ドラゴンまで出てきたでござるか!? それはなんとも……良く無事で……怪我はないみたいでござるが……」

「……何かされる前に花ちゃんが全部倒したから」

「は? いやいやドラゴンでござるよ? ドラゴン、竜、この世界で神と同等以上の力を持つ神とは別のこの世界の管理者、世界の調停者とも言われる恐ろしい存在でござるよ? それを、倒した?」

「うん、全部ワンパンだったね」

「そうだねぇ。……あ! あれれぇ? 私なんかやっちゃいましたぁ?」

「……」


 チョコちゃんが口を開けて呆然としている。

 花ちゃんが主人公ムーブをしている。

 かわいい。


 この世界のドラゴンてそんな感じなんだな。

 他の魔物とかと一緒でヨダレ垂らしながら絶叫してニョロニョロしてたから知性無い系のやつかと思った。


「ふぅ、はじめ、そいつは本当にドラゴンだったのか? ワイバーンとかと見間違えたとかはないか?」


 チョコちゃんの体が光ったと思ったら犬耳犬尻尾のクソニートが表に出てきた。

 相変わらずイケオジだな。腹が出ているが。


「あぁ、四郎さん、たぶんドラゴンでしたよ。ワイバーンより体もかなり大きかったし、何より姿が全然違うじゃないですか。見間違えるはずないですよ」

「……ふむ? 花ちゃ……花さんはどうだ? 殴ってみて何か違和感はあったか? 他の魔物や魔獣と違いはあったかどうかを知りたいんだが」

「違和感? うーん、そうですねぇ。……あぁ、そういえば野生のその辺にいる魔獣とかよりなんかこう、軽かったような? 魔力の密度的な? あとは頭を潰してもしばらく残った身体がニョロニョロ動いて気持ち悪かったです」

「ふむ……やはりそうか。はじめ、死体は持って帰ってきたか? それとも、死体は消えたか?」

「あ、そういえば死体は消えてたな。代わりになんかでかい綺麗な石が落ちてました。これってもしかして魔石ですかね?」

「なるほどな、大体分かった。花さんが倒したそいつはこの世界の管理者であるドラゴンではないな」

「と、言うと?」

「まず、この世界のドラゴンと呼ばれるものはあっちの世界で言うところの西洋のドラゴンの姿をしている。さっきニョロニョロと言ってたが、東洋の龍と言われるような姿をしたドラゴンはいないはずだ。あとは、この世界の魔物や魔獣は死んでもゲームのように死体は消えない。なのに消えたということは、おそらくそいつはダンジョン産の魔物だ」

「なぬ!? ダンジョンとな?!」


 あー、花ちゃんの目がキラキラし始めた。









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