第14話 魔力って便利
海の見える丘に建つ新築庭付き一戸建て。
そこには家族三人と犬一匹がリビングで仲良く楽しそうに団欒している。
ここだけ聞くと、どこにでもいそうなごく普通の一般家庭のようだ。
しかし実態は、赤ちゃんが天井や壁、遂には空中をハイハイして歩き回っている。
ママはゴリラみたいな馬鹿力でお外の魔獣を千切っては投げ千切っては投げ、返り血に塗れながら獲物を探して日夜徘徊している。
おまけに犬は二足歩行でござるござると頭の中のお友達とお喋りしつつ据え膳上げ膳の食っちゃ寝食っちゃ寝の引きニート、という状況である。
俺は三人の世話をしている専業主夫だ。
チョコちゃん達を家に招いてから、早いものでもう一ヶ月程経過している。
その間に異世界について知りたいことは大体知る事が出来たし、チョコちゃんに指導してもらい自衛できるくらいには強くなる事が出来た。
花ちゃんに関しては自衛どころではないが。
花ちゃんの馬鹿力の原因だが、異世界に来て身体に眠っていた魔力が噴き出したことが原因らしい。
花ちゃんが庭でワイヤーロープを簡単に引き千切ったのも、魔力で無意識に身体強化していたから出来たこと。
こちらに転移してきて体調が凄く良いと言っていたのも、魔力が身体に満ち満ちて溢れているから。
そして花ちゃんの魔力は量も質もヤバいらしい。
何がどうヤバいのかというと、ドラゴンを生身で屠り魔王を討った暫定主人公のチョコちゃんが、ヤバすぎて出会った瞬間恐怖で身体が震える程ヤバいらしい。
庭でチョコちゃんと相対した時様子がおかしかったのは、花ちゃんのあまりの魔力にビビり散らかしてたからだそうだ。
それに加えて、いっちゃんもヤバいらしい。
花ちゃんよりはヤバさが劣るが、魔王よりは遥かに多い魔力を持っているとのこと。
天井壁空中ハイハイもいっちゃんが自分でそういう魔法を使ってやっているそうだ。
この月齢でこのレベルというのが末恐ろしいと、四郎さんが言っていた。
うちの女神と天使はこの世界ではほぼ敵無しと言っても良いだろう。
花ちゃんは俺つえぇしたがっていたので夢が叶って嬉しそうだ。
私なんかやっちゃいましたぁ?と呟いていたのがとてもかわいかった。
いっちゃんは生後九ヶ月になり、掴まり立ちが出来るようになった。
子供の成長は早いなぁとしみじみ思うが、少し前に空中ハイハイしているからか感動が薄れる。
掴まり立ちも空中の何かを掴んで立ったりしている。
彼女には何が見えているのだろうか。
パパちょっと心配。
そして、俺である。
一応魔力持ちではあるが、至って普通の魔力量だそうだ。
その辺にいる上級冒険者と同じくらいでござるよ、とポテチを食べながら寝転んでゲームをやっている犬に雑に言われた。
上級なんだから凄いと思うのだが、花ちゃんやいっちゃんと比べるとどうしても見劣りしてしまうのはしょうがない。
二人がおかしいのだから、魔力があるだけ良かったと思う。
ちなみに、この世界には冒険者ギルド、冒険者というものが普通に存在している。
異世界ものには欠かせない、よく考えると謎ばかりの不思議な組織。
この世界の冒険者ギルドは神が後ろ楯になっているらしく、そのおかげで国を跨いで組織運営されている。
普通に考えて、国に匹敵する武力を持つどこの国にも属さない多国籍な組織とか意味分からないからな。
冒険者になるには難しい試験を突破しなければいけないし、冒険者カードとかいう無駄に高性能な謎な身分証もない。
転移者や転生者といった身元不明な怪しい人物、あるいはこの世界の孤児や荒くれ者といった一般人が金を払って直ぐに冒険者になれるわけないし、雑に身分を保証されるとかはない。
冒険者ギルドの後ろ楯になっている神は、チョコちゃん達を転生させた神とは別口らしく、話の分かるいい人だと四郎さんは言っていた。
たまにチョコちゃんをもふりに来る、もふ友だそうだ。
もふもふ好きに悪いやつはいない。仲良くなれそうだ。いつか会ってみたいものだ。
自分達の強さが分かったところで、魔力があると何が出来るのかと質問したら、なんでも出来るでござると返ってきた。
ゲームやアニメ、ラノベにあるような火の玉や風の刃を出したりする基本的な攻撃魔法。
どんな怪我や病気も治す治癒魔法。
鑑定や転移、召喚といった主人公キャラが持っているような魔法も出来る。
チョコちゃんに試しに魔法を見せてもらったところ、チョコちゃんが四匹に増えた。
分身の術だそうな。
地牛と戦っていた時にチョコちゃんと一緒にいたのはこいつららしい。
その他にも、火を吹いたり水を出したり土の槍を出したり木を生やしたりと忍者っぽいことを次々に繰り出していた。
「拙者は忍でござるのでこのくらい余裕でござる」
と、少し肥えた身体を揺らしながら笑っていた。
次の瞬間には家の中でやるなと花ちゃんにぶっ飛ばされていたが。
とまぁこんな感じで日本では考えられない超常現象は全て魔法という認識だ。
ついでに、魔力を持つ生物は身体の成長のピークを迎えると、それ以降歳を取るのが遅くなる。
人によってはピーク時の身体年齢を維持するし、若返りまでする人もいる。
身体能力も強化され、治癒能力も強化されるので怪我や病気の治りも早くなるが、そもそも怪我はしにくくなるし病気にもあまりならないそうだ。
これには花ちゃん大喜び。
いっちゃんも赤ちゃんは色々と病気にかかるのでその心配がなくなったのは良かった。
他にも魔力持ちの恩恵は沢山あるが、人間が想像できることはなんでも出来るらしい。
すごいなぁ魔力。
物理法則とかどうなっているのだろうか。
変に理屈で考えると魔法の発動に影響があるらしいので、深く考えずにそんなもんだと受け入れる事にした。
それから一ヶ月の間、魔力の扱い方を学び戦いの手解きを受けた。
平原に繰り出し魔獣や魔物相手に死闘を繰り広げたり(俺だけ)、魔力枯渇で死にそうになったり(俺だけ)、花ちゃんとの夫婦喧嘩で死にそうになったり(俺だけ)、いっちゃんが巨大化して踏み潰されたり(俺だけ)、チョコちゃんが引きニートになったり、色々なことがあった。
こんな感じで異世界生活をのんびりと過ごしている。
異世界を生きるにあたっての心配事はほぼ無くなったので、そろそろ旅行に行きたいなぁ。
「ただいまぁ! 牛の肉獲ってきたよ!」
今日も元気なうちの女神が、狩りを終えて帰ってきたみたいだ。
旅行の件を相談してみるとしよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます