第10話 やばいおっさん
犬とお話をしに庭へ向かう。
今回も花ちゃんといっちゃんは家の中で待機だ。
ヘルメット、軍手、鎌にシャベル。それに加えて仕事で使う安全靴があったのでそれも履き、腹には雑誌を忍ばせておく。
最初から武装して相対するのは悪手だろうか。
武装と言えるほどの物ではないが。
もし人間に友好的な犬だったなら謝れば許してもらえるだろう、友好的ではなかったらお話(物理)になるので、やはり武器は必要だろう。
つまり武装して行くのは正しい。気がする。
手足をガチガチに縄で縛っておいたから大丈夫だとは思うがあまり近づかないようにしておこう。
庭に出る前に隠れて犬の様子を窺おうとするもバッチリ目が合っている件。
そうだ、相手は犬だった。人間とは五感の精度が違うのだ、目を覚ました時点でこちらの存在は関知していたのかも。
気まずくなりこほんっ、と咳をしつつ、シャベルと鎌を腰の後ろのベルトに挟みこみ気持ち隠しながら近づいていく。
地面に横たわったままで、つぶらな瞳がじっとこちらを見ている。
「…あー、大丈夫ですか?どこか身体が痛むとかありますか?」
「………」
「……あー、草原に転がって気を失っていたみたいなので、こちらの、えー、拠点に運び込んだのですけども……」
「………」
「……えーと、見た感じ外傷はないみたいだったので、放置……様子見していた次第でして……」
「………」
「えー、あなたみたいな方にお会いするのは、何分初めてでして。あー、危険人物かどうか分からなかったので、とりあえず縛らせてもらったのですけども」
「……」
「あなたを傷付けようとか、何かしてやろう、てのは考えていないので……その辺は分かっていただきたいなぁと」
「……」
「あのー? やっぱり言葉、通じてない感じですか?」
「……」
「……通じてないなこれ。くそ、なんか恥ずかしいぞ」
どうしたもんかな、意志疎通できないパターンだったわ。
しかし、犬相手にもコミュ障発揮するとか自分が情けなくなるな。
言葉が通じないのはこの犬個人だけなのかこの種族全体なのか、それとも他のこちらの世界の人とも通じないのか……。
よくある異世界言語スキルとかがあればいいのだけど。
うーん、困ったな。
困ったことに端から見ると今の俺は、柴犬をガチガチに縄で縛り付けて全身武装して真剣な顔で「犬と言葉通じなーい」て言ってるヤバいおっさんなんだよな。
家の方を見ると、花ちゃんがなんかニヤニヤしてるのが見えるし。
「…………すまぬが」
「?!うぉびっくりしたぁぁっ!?」
話せんのかよ!!びっくりしたなぁ!!
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