第7話 初エンカウント

 急いで階段を駆け上がり、二階の窓から顔を出す。

 周囲をぐるりと見渡すと、家の裏手、背丈の高い草が生えた草原を少し行ったところに、複数の人影を見つけた。


 数は4つ。一箇所に固まって背中合わせになっている。

 ここからだと距離があり詳細には見えないが、少なくとも見た目は人間ではない。

 身長は1m程で全身何かの毛皮を着ている。

 手にはそれぞれナイフのような武器を持っており、その場から動かず何かを警戒しているようにキョロキョロと辺りを見回しているのが分かる。


 こいつらが先程の馬鹿でかい雄叫びをあげたのか?

 少なくとも辺りには他に動くものを確認できないが、こいつらは何かを警戒している。

 その何かが声の正体か?


「――っ!動いた!」


 毛むくじゃら達が焦ったように一斉に四方に散らばると突然、一匹の足元の地面が爆ぜる。


『ぶもぉぉぉぉおおおっっ!!』


 地面から馬鹿でかい牛が先程の雄叫びを挙げて飛び出してきた。

 と同時に、頭に生えているこれまたでかい捩れた角が毛むくじゃらを襲い、どごっ、と大きな音とともに吹き飛んでいく。


 その隙をつき他の三匹の毛むくじら達が牛に飛び掛かり、手に持った武器を振り下ろし何度も攻撃するが――、


「まるで効いてないな」


 毛むくじゃら達の頑張りも虚しく、その後も一方的な展開だった。

 牛は再び地面に潜り毛むくじゃら達を死角から強襲。

 どごん!どごっ!どごぉんっ!!

 と、距離が離れててもここまで聞こえてくる程の轟音を響かせて、毛むくじゃら達は一匹、また一匹と吹き飛ばされていく。


 最後の一匹も同じように吹き飛ばされ、放物線を描きながらこちらの方へ飛ばされゴロゴロと地面を転がる。


 それを見届けた牛はこちらを一瞥すると、地面には潜らずのそのそと歩いて草原の奥へと姿を消してしまった。


 牛の姿が見えなくなるまで見届けて、ふぅーっとため息をつく。

 いつの間にか隣には花ちゃんがおり、寝ているいっちゃんを抱っこして双眼鏡片手に興奮冷めやらぬ様子。


「異世界やばいな」

「うん、やばいねぇ! ゲームやアニメみたい!」


 二人でやばいやばい言いながら階段を降り、落ち着くためにリビングでコーヒーを飲み一息つく。


「ふぅ……モンハンかよ。なんだあの牛」

「狩りがいがありそうな牛だねぇ」


 家の裏にあんなやばい牛がいるとかやめてほしいんだけど。

 2tトラック並の大きさの地面潜る牛ってなんだよ。動きが完全に某狩猟ゲーのあいつじゃん。


「ねぇ、最後あの牛、こっち見てたよね。あのままこっちにも来ると思ったけど」

「来なかったね。縄張りが草原迄なのか、ただの気紛れか知らないけど。どちらにしても来ないでくれて助かったよ」


 あのままこちらに来てたらどうなっていただろう。

 俺達も毛むくじゃらみたいに吹っ飛ばされていたのだろうか。

 あの図体で突撃されたら家ごと壊されるんじゃないか?

 新居に引っ越して二日目で家が無くなるとか勘弁してくれ。


「あ、毛むくじゃらと言えば一匹こっちに飛んできたな」


「?! そうだ! こっちに飛んできたあのワンちゃん、まだ生きてるかもしれないしちょっと見に行こうよ!」


「ワンちゃん??」


「そう、あの子達、顔が犬だった!!」













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