第2話 Dance fashion



梨花りかちゃんっ!」


「お姉ちゃんっ!」



 久しぶりの再会にギュ~ッてハグしてくれる。

 柔らかさといい匂いがボクを包む。

 そして 頭をナデナデ。

 子どもの頃から変わらない ボク達の挨拶。

 もう6年生になったけど 相変わらず。

 嬉しいような 照れ臭いような。



「また 大きくなった? もう 私と変わんないじゃん」


「うん。春の測定で161㎝だった。お姉ちゃんと3㎝差だよ」


「電話で聞いてたけど 実際見るとビックリするね。赤ちゃんの時 オムツ替えてあげてた頃とか こんなに小さかったのに~」



 そう笑って赤ちゃんを抱っこするマネ。



「もうヤメテよ。ボク もう小6だよ? 12歳になったんだから」


「あっ そうだったっ! お誕生日おめでとう! プレゼント ここに入ってるから。可愛い服 選んだから 絶対似合うと思うよ」



 実は ボクの誕生日は今日 8月8日。

 お姉ちゃんと一緒にテーマパークお誕生日。

 人生最高のお誕生日になるの 確実すぎ。



「誕生日プレゼントも渡したいし そろそろ行こっか? ホテルに荷物置いて 着替えて テーマパークにレッツ ゴー! そうだ アレ 持って来た?」


「もち! ボクの宝物だもん」



 アレってゆーのは ボク達の推しキャラの猫耳カチューシャ。

 去年来た時に お姉ちゃんに買ってもらったんだ。

 大きめの黒猫の左耳に白いスパンコールのリボンが付いている。

 お姉ちゃんとお揃いだから 大切に仕舞っておいた宝物。



「今度は 双子コーデしようって言ってたでしょ? お誕生日プレゼントも兼ねて 可愛いの選んできたから ホテルで着替えようね」


「えっ!? 去年 言ってたの 覚えててくれたの?」



 お姉ちゃんとお揃いコーデとか嬉し過ぎっ。

 ……でも 大人っぽい格好だったら似合わないかも。

 ちょっと心配な気持ちにもなる。



「大丈夫! 絶対 可愛いから! 早く行こ?」




★☆★




「……お姉ちゃん。ボクも その格好になるの……?」


「そうよ? 可愛いでしょ?」



 先に着替えたお姉ちゃんは ローライズの七分丈のデニムパンツ。

 ちょっと厚底になったミュール。

 もちろん 黒猫耳のカチューシャ。


 そこまでは いい。

 ヤバいのは 黒の超ミニミニキャミソール。

 ヘソ出しになってて お姉ちゃんの縦長の綺麗な おヘソが見えてる。

 胸元も けっこうギリギリで 膨らみはじめのところが見えてる。


 ……そりゃ スタイル抜群で 大人なお姉ちゃんは いいけど。



「か カワイイけど ちょっと恥ずかしいかも……」 

 

「なーに? 恥ずかしがっちゃダメだよー。ここ『魔法の国』だよ? 楽しんだもん勝ちだって こないだ電話で 梨花ちゃんも 言ってたでしょ?」


「だって 大人っぽ過ぎて ボク 似合わないよ」


「えー 大丈夫だよ。身長かわんないって さっき梨花ちゃん 自分で言ってたじゃん。絶対 セクシーな感じで エロカワだって」



 『エロカワ』とか 絶対ダメなヤツな気がする。

 ボク まだ小学生なんだし。


 

「……『エロカワ』とか 怒られちゃうかも……」


「気にすること無いよー。別に学校行くんじゃないんだから。お姉ちゃんだって こんな格好で大学 行かないよ? 『魔法の国』用のコスプレって思えばいいじゃん。ガッコ行く時は 猫耳カチューシャだってしないでしょ?」



 ……コスプレ。

 そう言われると 男の人でもカチューシャしてたりするけど。

 そして殺し文句。



「せっかく来たんだし お姉ちゃんと双子コーデしよ?」 

 

「う うん。それは したいんだけど。……あ あのさ そのキャミの肩紐の下に見えてるのって ブラの紐でしょ? ボク スポーツブラだから 見えちゃうの恥ずかしいし……」



 お姉ちゃんに ブラの話するの なんかメッチャ照れる。

 一緒に暮らしてた頃は まだ してなかったからかな?

 大人になっていってるって知られるの なんかスゴく気恥ずかしい感じ。



「あ。ごめん ごめん。それ 言うの忘れてた。ここの『TOYS FACTORY HOTEL』の1階 衣装屋さん いっぱい入ってるの。ちゃんとランジェリーショップもあるから」


 

 チラッとボクの胸見ながら お姉ちゃんが続ける。



「梨花ちゃんも けっこう胸 膨らんできたから 一度 ちゃんとお姉ちゃんが見繕ってあげないとダメだなーって思ってたのよ。お母さんも おばあちゃんも 全然 分かってないからさー」 



★☆★



「ほらっ これとか 可愛くない?」


「……やっぱ 黒じゃないとダメ?」


「ダメダメ。逆に黒じゃ無い方がヤバいって」



 お姉ちゃんは 嬉しそうに 黒系の下着が吊られたハンガーを色々と物色している。

 


「見て見てー コレもカワイー」


「……レース付きとか 普段 使えないし……」


「別に体育無い日だったら 分かんないし 大丈夫でしょ。高校くらいになったら みんなしてるよ?」


「ボク まだ 小学生なのっ」



 お姉ちゃんは 顎に手を当てて 思案顔。

 そして おもむろに 良いこと思いついたって顔で 提案してくる。



「じゃあさ ブラも お揃いコーデにするのは どう? お互い1種類ずつ選んで 今日の分と明日の分で着けるの。お姉ちゃんと一緒なら そこまで恥ずかしくないでしょ?」


「えっ? あ。うん。それなら……。でも あんまり 派手なの選んじゃヤダよ?」


「分かってるって。ほらっ 先に 梨花ちゃんセレクト 選んじゃって?」



 お姉ちゃんに急かされるままに 黒系ハンガーの下着を手にとって選ぶ。

 できるだけシンプルっぽいヤツを探さないと……。



「これなんか どうかな?」



 見た感じ1番シンプルっぽいヤツを お姉ちゃんに手渡す。

 


「ふーん。梨花ちゃん こーゆーの好みなんだ? あっ でも これ……」



 お姉ちゃんは ボクの方向いて ちょっとマジメな顔。



「あのさ コレって カップの幅が小さくて グッと寄せて上げて 胸元強調するタイプのヤツなの。梨花ちゃんみたいな着けはじめの子はさ カップで全体をちゃんと覆うようなタイプのヤツ選んだ方がいいと思うよー」



 あれ? そうなんだ。

 シンプルそうだし いいと思ったんだけど……。

 返してもらって 棚に戻そうとするけど お姉ちゃんは 悪戯っぽく笑って そのブラをカゴに入れる。



「でも 梨花ちゃんが選んだんだし。『魔法の国』だしね。せっかくだから お揃いコーデしてみよっか?」



 ってウインク。

 えっ? なんかボク トンでもないヤツ選んじゃった?

 結局 お姉ちゃんが選んでくれたのは 黒ベースでカップの端が水色のチェックになったブラ。

 カップも大きめで これなら学校にでも着けて行けそう。

 こんなことなら はじめからお姉ちゃんに任せた方が良かったかも……。


 

★☆★ 



 ブラを着け替えて お姉ちゃんが用意してくれた服装に着替える。

 胸が締め付けられて ちょっと苦しいけど ボクにも 胸に谷間ができてる。

 ミニミニキャミの胸元から少し見えてて けっこう恥ずかしいけど 少し慣れてきた。

 やっぱり お姉ちゃんと双子コーデっていうのは 嬉しいし。



「動いちゃダメだよー」

  


 今は ホテルのロビーで お化粧してもらってる。 

 化粧筆を持って近づいてくるお姉ちゃんのミニキャミの胸元にも しっかりと谷間。

 お化粧は ちょっと嬉しい。

 もちろん まだ お化粧道具とか持ってないけど 昔から 時々 お姉ちゃんにお化粧してもらってた。


 今日のお姉ちゃんは くっきりのアイラインに ラメ入りシャドウとしっかりチークのよそ行きメイク。

 家にいた頃は 黒かった髪も少しヘアカラーのせて 少しブラウン寄りで大人っぽい。

 後ろ髪だけ残した変形ハーフアップでスゴ~くオシャレ。



「最後リップとグロス塗るねー。……っと 完成っ」



 スマホのインカメラで確認する。

 お姉ちゃんがしてるのと同じメイク。

 目元とか似てるから 確かに双子っぽい感じで テンション上がる。

 子どもっぽくてヤだなって いつも思う鼻の辺りも お姉ちゃんに似た感じにしてもらえてて 嬉しいかもっ。

 


「お姉ちゃん ありがとっ メッチャ可愛い~ッ!」



そのまま自撮りしようとすると お姉ちゃんに止められる。



「待って 待ってー。一緒に撮ろ? お姉ちゃんも リップ塗り直すから ちょっと待ってよ」


「うん。わかった~」


「オッケー。顔寄せて ハイ ポーズ!」


「お姉ちゃん もうちょっと 首曲げた方が 可愛くない?」


「そうかもー。こんな感じかな?」



 何枚か撮り直して お気に入りの1枚 完成~っ。

 今日1日で あと何枚 撮れるかな?

 


「お姉ちゃん そろそろ 行こっ! 朝のイベントの終わっちゃうよ~っ」


「うん。急ごっか。新アトラクションも予約 取らなきゃだしね」



 2人で 手を繋いで エントランスへ向かう。

 最高の誕生日 最高の夏休みの1日にするんだからっ。

 


 

 

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