悪魔・ラブコメ・太陽

冬野原油

三題噺5日目 なんだこのお題は

 飽きたので世界を消してみたあと、神は暇だった。暇には慣れていた神だったが、光も闇も天も地もない中で適当に数百億年過ごしてみたところで飽きを感じた。時間もないはずだからそんなふうに思ったのは意外だった。せっかくだから、楽しいことをしてみようと思った。

 堕落させるべき存在を失ったので、悪魔も同様に暇だった。世界が消えてすぐ、天国と地獄があった頃には簡単に会えなかった神に、意趣返しも込めてちょっかいをかけて遊ぼうとした。それなのに神ときたら自分以外の何かを眺め続けてばかりだったから意思とか感情ってもんが欠けている。何をしても「ああ」とか「うん」しか言わず張り合いがない。結局数千年で飽きてしまった。それなら今度は自分が創造神になってやろうじゃないのと手を動かし始めたはいいものの、これまでずっと壊したり使い物にならなくしたりしてばかりの手では光すら生み出せなかった。数億年くらいは試行錯誤を重ねたものの、なぜ自分が神の真似事なんかせにゃならんのだと憤慨してこれもやめた。暇だった。久しぶりに神に会いに行ってやろうかと思った。


 神が「なんかめちゃ楽しいことあれ」と言われると、悪魔がやってきた。自分にとってのなんかめちゃ楽しいことが悪魔に会うことなのはちょっと嫌な感じがしたので、それから数百年ほど待ってみたが、特に何も起こらなかった。神がぼーっとしている間、悪魔は「やっぱこいつつまんねえわ」と思い、なんかめちゃかっこいい生命を作ろうとして失敗し、断末魔を聞くためになるべく痛そうに殺してみたりして遊んでいた。声帯をうまく作れなかったので、断末魔は聞けなくてまあなんだかんだで暇だった。

「あのさ」と声をかけたのは神の方だった。自分で呼んだ手前、話始めるのは自分であるべきだと判断した。「私、なんかめちゃ楽しいことあれって言ったんだ。そしたら君が来た。それってつまり、私にとっては君がなんかめちゃ楽しいこと、ってこと?」

「はい?」

「いやだから、私がなんかめちゃ楽しいことあれって言ったらね」

「はあ」

「君が来たんだ」

「そうなんすね」

 悪魔はちょっと腹が立った。神になんか会いに行くもんじゃねえなやっぱ。

「知りませんよ。あなた、全知全能なんだからそれくらい分かるんじゃないですか?」

「アッ……そうかも。うーーーーーーん、うーん? うん、ううん……アッッッ!」

「はい」

「私にとってのなんかめちゃ楽しいこと、君っぽい!」

「ぽい」

「うん!」

「あのですね、そもそも『なんかめちゃ楽しいことあれ』ってなんです? 仮にも神なんだから、もっとこう、あったでしょう。自分の中に楽しい感情を生み出すとか」

「やだ。人間の麻薬みたいじゃん。廃人になっちゃうんだよ。というか敬語やめてほしい。距離感じてやだ」

「いや仮にもあなた神じゃん。そんなのできないよ。……クソ~あなたがそう言ったらそうなるじゃん」

「ね、私と一緒になんかめちゃ楽しいことしよ!」

「あなたが言葉にしたらそれはもう命令なの!」


 せっかくなので悪魔は神に光の作り方のコツを教えてもらうことにした。神はとりあえず言うだけでなんでも叶うので他者にものを教えるのは苦労した。神が苦労を感じるなんて初めてのことだった。悪魔はそんなへたくそな先生に悪態を吐きつつ、宇宙とか星とか太陽とか、空間とか時間とかの作り方を考えて、初めて世界を生み出すことができた。


 今度は天国と地獄を作らず、神と悪魔は一緒にそれを眺めることにした。孤独に眺める世界よりも、それはずっと楽しいものだった。

 飽きたらまた壊して作ろ~、と神は思った。

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悪魔・ラブコメ・太陽 冬野原油 @tohnogenyu

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