第7話 合点承知の助




 そなたが顔を合わせた哲寿てつじ様は哲寿様の一部である。

 哲寿様の御本体は未だ、故郷におられる。

 一部を失った哲寿様の御本体をこちらには連れては来られぬ。

 早く御本体に一部を戻さなければ、哲寿様は、哲寿様は、化け狐ではなく、ただの狐になって故郷での生活を余儀なくされ、二度とこちらには戻れず、そなたにも相見える事ももう叶わないであろう。

 変化が生じ始め、もう、時間はない。

 早くしなければならぬ。

 歩葉あゆは殿、力を貸してくれ。




 小虎ことらと名乗る小虎から重々しく言われた私は、大丈夫だよと陽気に返した。


「てっちゃんはてっちゃんのお母さんとお父さんのふるさとに帰る気満々だし」

「そうであるか。それならば、話が早い。哲寿様は邸宅であるか。早く行こう。すぐに行こう。歩葉殿、某の背中に乗るがよい」


 ひゅーいぽふんひゅーい。

 空から飛んできた綿雲が小虎の姿を隠したかと思ったら、小虎は大虎に変化してしまい、綿雲はまた空へと飛んで行った。


「もう、あの頃のあなたに会えないのね」

「いやいやいや。変化であるゆえ。某の本来の姿は小虎であるゆえ。いつでも小虎の姿を見せる事はできるゆえ」

「あ、そうなんだよかったよかった。大虎の姿も大好きだけど、小虎の姿も大好きだから、もう会えないんだと思ったらショックでさあ。よかったよかった。初対面から十五分くらいしか経ってないのに、ショックだなんて、おかしいけど」

「いやいやいや。そこまで思い入れくださって、光栄でござる。ささ。歩葉殿。某の背中に乗るがよい」

「うん。うんしょっこいしょ。うん。あれ、おかしいな。大体、テレビとかではすぐに乗れるはずなんだけど。うんしょ。うん。ごめん。小虎。あ。え~~~っと」


 どうしても小虎の背中に乗る事ができない私は、きょろきょろと周囲を見たけど、よさそうな場所がなかったので、駄菓子屋に戻ろうと言った。


「なにゆえ?」

「小虎が立ったままだったら背中に乗れそうにないから、寝そべってもらいたいんだけど、熱々のアスファルトの地面しかないから、駄菓子屋に戻って、冷え冷えの床で寝そべってもらって、それで背中に乗ろうと思って」

「おお、流石は哲寿様の唯一無二の御友人であられる。なんと心優しい。某は、某は。感極まっておりまする~」

「あ!小虎が大泣きしたおかげで、水溜りができた!よかったよかった。小虎。熱々になる前に寝そべって」

「合点承知の助」


 うむ、天然の温泉にて極楽極楽。











(2024.8.18)



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