第6話 ぷかりぷかり




「ま、まあ。てっちゃんの家は知ってるから。いいけど。さ。てっちゃん。足が速いんだからもう」


 駄菓子屋から出て、てっちゃんの背中を追えたのは、ほんの数秒。

 あっという間に、距離が開いたかと思えば、てっちゃんはもう姿を消していた。

 てっちゃんはとてつもなく、足が速かった。

 いつもいつもいつも、幼稚園でも小学校でも運動会では一等賞なのだ。


「そして私は、ビリから二番目。っふ。ふふっふふふふっと」


 足は軽い、とは思う。うん重くはない。けれど、どうしてか、走るのは遅い。

 謎だ、謎過ぎる。足が重いならわかるけれど、足は軽いのに、どうしてこんなに走るのが遅いのか。

 きっと、解ける事のない永遠の謎なのだろう。

 いや。いやいやいや。

 永遠の謎は、今、解けてしまった。

 頭が、重いのだ。とてつもなく重い。コンクリート地面しか見えないくらいに頭が下がってしまう。


「いや。いやいやいやいや。待て待て待て。何でこんなに頭が重いのか?」

「某がそなたの頭に乗っかっているからである」

「そっかなるほど通りで重いはずだ。よし。謎は解けた………うん?某って、誰?」

「某は哲寿てつじ様の見守り獣の小虎ことらである。小虎の姿の小虎。覚えやすかろう」


 頭が軽くなったかと思ったら、目の前に、漆黒の両翼を背中から生えさせた小虎が、ぷかりぷかりと浮いていた。

 ぷかりぷかり。


「哲寿様って誰?」

「そなたがてっちゃんと呼んでおるお方だ」

「………あ。そっかそっか。てっちゃんは、哲寿だった。そうだそうだ。もうずっと、てっちゃんってしか呼んでないから、名前忘れてたや」


 あっはははは。











(2024.8.17)



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