第5話 小虎




 駄菓子屋の居間にて。


「ほかの子どもにバカにされて、悲しくて。母ちゃんと父ちゃんのふるさとにいる時は、母ちゃんも父ちゃんも厳しいし。すんごく厳しいし。じいちゃんもばあちゃんもおばさんもおじさんもいとこもみんな。みーんな。厳しいし。俺の味方は誰もいなくって。そしたら、すんごく、あっちゃんに会いたくなって。でも、俺一人じゃ、母ちゃんと父ちゃんのふるさとからここに帰る事もできないし。ただ、みんなからすんごく離れた鬼灯畑で一人でしょんぼりしてたら、小虎が俺に抱き着いてきてくれてさ。一緒に遊んでたら、楽しくなってきて。小虎が翼を背中から出してさ、一緒に飛ぼうって言うから、うんって言って。俺、飛ぶの、苦手だったけど。小虎と一緒だったら、飛べるって、高く早く飛べるって、思って。先に飛んだ小虎を追いかけようとして、飛んだら。いつの間にか。ここに戻って来てた。トランポリンの上にいた。だから。どうやったら、母ちゃんと父ちゃんのふるさとに行けるのか。わからない」

「お母さんとお父さんのふるさとに行く時はどうしてたの?」

「家で母ちゃんと父ちゃんと一緒に手を繋いで、母ちゃんと父ちゃんが一緒に行くよって言ったら、いつの間にか、母さんとお父さんのふるさとに来てた」

「じゃあ、てっちゃんの家に行こう。家に行ったら、ふるさとに行ける方法があるかもしれないよ」

「そう。か。そっかそっかそうだよね!うん!行こう!俺の家に!」

「うん」


 元気いっぱいに飛び出したてっちゃんの後に続いて、私も駄菓子屋から元気いっぱいに飛び出した。




 結局、麦茶もサイダー瓶も駄菓子屋のばあちゃんからご馳走にはならなかった。

 それだけが心残りだった。











(2024.8.16)



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