第二十三話 報告②
「これは?」
「例の花で作ってみた薬です! 完成後、すぐに横鍋四軒通りの病人で試してみたところ、たちどころに天然痘と麻疹が治りました!」
「………」
まさか、本当だったとは………。
ということは、永遠の命の元も………。
久兵衛は驚きを顔に出さず、主らしい厳格さで考え込むと、やがて言った。
「これで私の言ったことの意味が分かっただろう? だが、恐らくは、効果は一日だけだ。だから、大量に作る必要があるが、このことを知っているのは?」
「旦那さまと私以外では、病の治った母娘だけです。あと、薬の製造を井出橋通り診療所の医師に依頼しましたが、その者は薬効までは知りません」
「そうか………」
久兵衛は再び思案した。
「この件は他言無用だ。とはいえ、病の治った母娘から話が広がることは間違いないだろう。その前に、あの花を採れるだけ採ってこい」
「分かりました!」
彦三郎はそう答えるなり、部屋から飛び出して行こうとしたので、久兵衛は呼び止めた。
「待て! それからもう一つ、御幸の森の中心にある木を探せ」
「御幸の森の中心、でしょうか………? あれだけの広さの森のどこが中心で、どれがその木なのかは、なかなか判別しにくいと思いますが………?」
「グダグダ言うな! そこに行って見れば分かる!」
「承知いたしました!」
ピシャリと言われた彦三郎は、一度頭を下げて部屋を辞した。
その後姿を見届けると、久兵衛は再度、胸の黒ずみを見た。
永遠の命の元は、半分のままでは体に支障がでる。
確か、あの人影はそう言ったはずだった。
急ぐ必要があるな………。
久兵衛はイヤな汗が背中に滲み出すのを感じながらそう思った。
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