第二十四話 右の袖

 心之介が診療所に戻ってきて客間に近づくと、愉快そうに話す高盛の声が聞こえてきた。


 ところが、突然、ピタッとやんだ。


 心之介が開いている客間の障子戸の前を通り過ぎようとしたからだ。


「ただいま戻りました………」


 それでも何事もなかったかのようにそう言うと、さくらが答えた。


「おかえりなさい」


 心之介はさくらに軽く会釈をして、足早に立ち去った。


 その際、心之介の右の袖が切れているのを見つけたさくらだったが、この場では何も言わなかった。


 すると高盛が嫌味たらしく不満を述べた。


「あの用心棒は、本当に頼りになるのでしょうか? 猫の相手しかできないような男より、私のほうがよっぽど役に立つと思いますが」

「高盛さんのようなお忙しい方にお願いすることはできません。それに、あくまでも用心のためです。実際に狙われるようなことはありませんので、ご心配には及びません」

「そうだとしても、私とさくらさんの仲です。水くさいことは言わないでください。さくらさんのためなら用心棒でも何でもします。私はさくらさんの力になりたいのです」


 高盛が真剣な目で見つめてくるので、さくらはふと視線をそらした。


 その様子に高盛は一度ため息をついてから言った。


「私もそろそろ帰ります、さくらさんもお忙しいでしょうから」


 そして、高盛が去って行くと、さくらも立ち上がった。

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