第二十一話 一大事②

「私は………その………うぐいす村診療所のさくら医師に頼まれてやってきた!」


 それを聞くや、母親の表情がパッと明るくなった。


 どうやら、この辺りにも評判が広がっているようだった。


 ところが母親は、すぐに暗い顔に戻った。


「薬をいただけるのでしたらありがたいのですが、私たち二人は、もう………」


 彦三郎は一刻も早くこの場を立ち去りたかったので、小箱から紙包を二つ取り出して畳の上に置いた。


「騙されたと思って、これを飲むといい! 娘の分もある!」


 母親は諦め気味ながらそれを受け取ると、台所にある汲み置きの水をお椀に入れて娘のもとへ行き、薬を飲ませた。


 彦三郎はその様子を見ながら思った。


 自分は一体、何をしているのだろうか………。


 久兵衛に命じられたものの、末期の天然痘と麻疹の人間にわけのわからない花の煎じ薬など渡してどうなるというのか。


 こうなっては、もはや仕事を探さなければならないな………。


 彦三郎がそんなことを考えていた矢先だった。


 娘の顔からみるみる発疹がなくなり始め、あっという間に生気が漲り出した。


「………!?」


 驚いたのは彦三郎だけではなかった。


 母親はしばし呆気にとられていたものの、我に返るなり、すぐに薬を飲んだ。


 すると、娘と同様に、またたく間に病状が消えた。


 二人は茫然としたのち、歓喜しながら抱き合った。


 これは一大事だ………!?


 彦三郎は開いた口をふさぐことも忘れたまま部屋から外へと駆け出した。

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