第十六話 謎の娘②

「お礼はこれでいかがでしょうか?」


 宗庵が包みを開けてみると、中には小判が一枚入っていた。


「こんなに………!?」


 驚く宗庵に彦三郎は言った。


「急ぎゆえのことなので、その分も含まれております」

「分かりました。ご期待に応えてみせましょう」

「いつ頃、出来上がりそうでしょうか?」

「そうですね、急いで取りかかりますので、夕刻前には仕上がっていると思います」

「では、その頃に受け取りに参ります」

「かしこまりました」


 思わぬ臨時収入に気を良くした宗庵は、彦三郎を戸口まで見送りに行った。


 そして、その様子を、向かいの建物の陰から心之介が見ていた。


 あれが長谷部宗庵か………。


 心之介は宗庵の顔を確かめると、通りを小走りで去っていく彦三郎の前掛けを見た。


 吉の文字を丸で囲んだ文様。


 薬種問屋の吉津屋か………。


 そこまで確認できた心之介だったが、この件は一旦置いておかなければならないと思った。


 何者かがつけてきている………。


 その気配を感じ取っていたからだ。


 だから心之介は、何も気づいていないふりをしつつも歩き出した。

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