第十四話 摘み取り

 彦三郎は御幸の森の前まで来ると、一旦、足を止めた。


 カゴを背負い、手にカマを持った使用人たちは、見るからに怖がっていた。


「さあ、何をしている! これは主の命令だ! 給金がほしくないのか!」


 彦三郎が奮起させるようにそう言うと、使用人たちはオドオドしながらも森の中に入って行った。


 それを見届けると彦三郎も続いた。


 ◇ ◇ ◇


 彦三郎は最後尾から鬱蒼と茂る草と木立が作り出す薄暗い空間の中を進んだ。


 今にもモノノケが出てきそうなほど薄気味悪く感じられた。


 やがて、いくつかの荒れた一帯を過ぎ、かつ川を一つ越えてほどなくしたあたりで、列の前のほうから声があがった。


「これじゃないのか!?」


 彦三郎はすぐさま駆け出して、列の先頭まで行った。


 すると、その一角に、薄紫色の花が群生していた。


「恐らく、そうだろう………よし、すぐに摘み取るんだ!」


 使用人たちは、一刻も早く森から出たいため、手当たり次第に刈り取っていった。


 そして、一輪も残らずカゴに入れると、今度は一番早く逃げ出したい彦三郎が先頭になって引き返し始めた。

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