第十三話 人相書④
「どういうことですか………?」
「以前、この長屋に住んでいた若い娘さんがいたのよ。その子がお蓮っていう名だったの」
「では、その子と、この似顔絵の人物が一緒に暮らしていたのですか?」
「そうよ。お蓮ちゃんがこの長屋に引っ越して来てしばらくしてからのことだけど、たまたまお豆腐のお裾分けに行った時に、その人が家の中にいるのを見たことがあるわ。理由は分からないけど、一緒に暮らしていたみたいね。でも、ほとんど家から出ることがなかったから、知っている人はいないと思うけど」
「その人は、今もここに住んでいるのですか?」
「いえ、もういないわ。ある日、急に、二人ともどこかへ行ってしまったから」
長屋の住人に姿を見られたから、住まいを変えたのか………。
心之介はそう思った。
だが、若い娘と一緒に暮らしていたとは、どういうことなのか………。
「その後の二人の消息を知りませんか?」
心之介が聞くと、ザンバラ髮の女性は首をかしげた。
「さあ、そこまでは………」
「お蓮ちゃん、今、どこで何をしているのかな………」
娘も思い出すようにしみじみと言うと、ザンバラ髮の女性が続けて不満をもらした。
「でもね、さっきのお役人さんたら、彼女のことを悪者扱いしていたのよ。だから言ってやったの、お蓮ちゃんは辻斬りをするような子じゃないって。あんないい子は他にいないぐらいなんだから。何て言ったって、ここは貧乏長屋だからね。その日の食い扶持に事欠く人もいるくらいだわ。でも、朝、目を覚ましたら、戸口に紙包みが置いてあるの。中には、なんとお金が入っているの。誰がそんなことをしたのかは分からないし、本人に聞いても違うって言うんだけど、みんな彼女だって思っているわ。それくらいいい子なのよ」
「………」
やはり、親分が何か誤解をしているのかも………。
心之介は今の話を聞いてそう思いつつ、お礼を述べてからその場を去った。
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