第九話 主の厳命②

「聞こなかったのか?」

「いえ、聞こえておりました………」

「では、何故、返事をしないのだ?」

「申し上げにくいのですが、ここにいる使用人たちには、それぞれの生活があります。もちろん、私にも………」

「だから言っているのだ。その花を見つけて薬にすれば、今までの未払いの分どころか、その何倍もの額を支給することができるのだ」

「………」


 彦三郎は、また押し黙った。


 半信半疑だったからだ。


 それは使用人たちも同じだった。


 かつ、久兵衛自身も同様でもあった。


 あの人影の話を信じたわけではないからだ。


 だから、まずは一夜花を見つけて真偽を確かめる。


 それで、仮にそれが本当に有益なものだったら、永遠の命の元となる花を探しに行こうという腹積もりだった。


「私がデタラメを言って、お前たちをタダ働きさせようとしているとでも思っているのか?」

「いえ、そのようなことは………」

「では、すぐに行け」

「かしこまりました………」


 久兵衛が睨みをきかせるように言うと、彦三郎は承諾するしかなかった。


「これが準備金だ。手早くすませれば、それだけお前たちの生活も早く楽になるということを忘れるな」


 久兵衛は最後にそう言うと、彦三郎に数枚の小判を手渡した。

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