第十話 人相書①

「今日もありがとうね」


 心之介がお加代を部屋の前で下ろすと、通りの先を米吉が横切っていくのが見えた。


 ちょうど聞きたいことがあったので、心之介はそのあとを追いかけた。


 ◇ ◇ ◇


 戸端八軒長屋から次郎兵衛じろべえ長屋へやってくると、米吉が住人に話を聞いていた。


 どうやら、人相書を見せているようだった。


 様子をうかがうために心之介が近づいていくと、声が聞こえた。


「間違いないのだな?」

「ええ、間違いないわ」


 幼い娘と一緒に洗濯物を抱えたザンバラ髪の中年女性住人が、米吉に誇らしげに答えていた。


 「忘れるわけないわよ。優しくて、困っている人を助けてくれていたんだから。あんなにいい子はいないわ。この子も彼女のことが大好きなのよ」


 ザンバラ髮の女性がそう言うと、娘がニコッと笑い、二人して井戸の方へと歩いて行った。


「………」


 すると、米吉が不満気な顔をした。


「お尋ね者を探しているのですか?」


 心之介が聞くと、米吉は人相書を見せた。


「そうだ、こいつだ」

「誰ですか?」


 心之介は、まだ少女の面影が残る女性の顔をまじまじと眺めながら聞いた。


「赤髪のお蓮だ」

「これが………?」


 意外だった。


 闇夜の剣客という呼び名とは結びつかなかったからだ。

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