第三話 命の価値③

「どけどけ!」


 叫びながら戸を開けた辰三たつぞうは、診察室に入ろうとしていたお志野しのを押しのけてさくらの前まで行った。


 倒れそうになったお志野をお梅が支えた。


 お里は戸惑う待ち合い室の人たちを落ち着かせるために一緒にいた。


 そして、処置室にいた心之介は、間仕切り越しにらさくらを見た。


 すると、さくらはチラッと心之介を見て“心配無用です”という感じで首を振った。


「今すぐ治療をしてくれ!」


 派手な着物を着流した辰三はケガをしてるのか、腕に布を巻いていたが血がにじんでいた。


 辰三はさくらに布の巻かれた腕を突きつけた。


 が、さくらは冷静だった。


「並んでいただけませんでしょうか? 先に順番を待っている方々がいますので」

「何を言ってやがる! 俺を先に診てくれ! これが見えないのか!」


 辰三は腕の布を恐る恐る取った。


 見た目にも程度は軽かったが、本人は血相を変えていた。


「見ろ! 血が出ているじゃねえか! 今日は大稼ぎだったが、銀二の野郎がイカサマだなんて因縁つけやがって、おまけに刃物を振り回すもんだからこのザマだ! とっとと治療してくれ! 金なら好きなだけくれてやる!」


 辰三はずっしりと小銭の入った財布をさくらの前に投げた。


 が、さくらはそんなものには見向きもしないでまた言った。


「並んでください、みなさん、順番を待っています」

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