第三十一話 念結び②

 木々の枝葉の間からこぼれる月明かりが、森を一層幽玄なものにしていた。


 心之介はすぐにおみつのかんざしを懐から取り出し、手のひらの上に乗せた。


 すると、かんざしは磁石のように何かに反応し、小刻みに震え始めた。


 心之介がその動きに導かれるように一番強く震える方向に向かって進むと、ほどなくして一人の女性、おはつが現れた。


 おはつの体は透けていた。


 また、足はまるで地面に吸いついているかのようで、歩くことさえ困難なようだった。


「おみつ、どこへ行ってしまったの………」


 おはつは真新しい着物を大事そうに抱え、そう呟きながらさまよい歩いているようだった。


 その着物も透けていた。


 心之介がおはつの前まで行くとかんざしが激しく振動し、やがて止まった。


「おはつさんですね?」


 おはつは心之介を見てから、手のひらの上のかんざしを見た。


「それは、おみつの………!?」

「そうです、おみつさんから借りてきました」

「おみつはどこにいるの!? あの子に会いたいの! この着物を渡したいのよ!」


 もう会うことはできません。


 心之介はそうは告げなかった。


 だから、代わりに言った。


「私があなたの想いを結びます」

「………」


 と、心之介がそう言うや、今度はおはつが小刻みに震え出した。


 そして、やがておさまると、おはつの体がふわっと持ち上がり、足も地面から浮き上がった。


「私につかまってください」


 おはつは心之介に言われるがままに肩につかまった。

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