第三十話 念結び①

 ここも違う………。


 拝殿を覗いていみた心之介は、そう思った。


 結局、最初の神社のあと、他に五つほど調べてみたが、黒の神社は見つからなかった。


 と、金剛寺の鐘が九回鳴った。


 すでに午前零時だった。


 そろそろ行かなくては………。


 心之介は、一旦、黒の神社探しを切り上げることにした。


 ◇ ◇ ◇


 心之介が戸端八軒長屋へやってくると、辺りは寝静まり、道行く人の姿もなかった。


 そのまま足音を忍ばせておみつの部屋の前まで行き、静かに戸を開け、中に入り込んだ。


 おみつも藤治も八重も眠っていた。


 心之介は三人を起こさないように近づき、おみつのかんざしをそっと抜き取ると外に出て、今度は東へ向かった。


 ◇ ◇ ◇


 御幸の森は、日中とは違い、まるで別の姿だった。


 重たげな暗澹が垂れ込め、まるで冥界への入り口のようでもあった。


 いや、実際、そうだった。


 それが御幸の森の奥深さでもあった。


 陽のある間は異次元への入り口、闇に覆われたあとは黄泉の国。


 だから、心之介がここに来る理由も時間帯で異なっていた。


 昼は千年花を探すこと、夜は人を見つけ出すためだった。


 と言っても、探すのは故人だったため、何かしら「形見」がなければ会えなかった。


 何人もの迷える亡人がさまよっていたからだ。


 心之介は一つ息を吐くと、森の中に足を踏み入れた。

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