第二十九話 人影④

「………」


 久兵衛は、また自分しか知らない商売のことを言われたのでしばし考え、やがて言った。


「御幸の森といっても広大です。永遠の命のもう半分がどの辺りにあるのか教えてくれませんか………?」

「森の中心に一本の霊木がある。お前のほしいものはその根元にある」

「そこに何があるのですか………?」

「花だ」

「花………」


 永遠の命の元がそんなものだとは………。


 久兵衛はそう思いつつも続けた。


「ですが、御幸の森の中心と言われても、どこがその場所なのかが分かるものなのですか………?」

「そこに行けば分かる」

「では、たくさんある木の中で、それが探している霊木だとどうやって見分ければいいのですか………?」

「見れば一目で分かる。そういうことだ」

「ですが………」

「四の五の言うな!」


 人影がピシャリと言ったので、久兵衛は黙った。


 これ以上の問答は無理なようだった。


 そして、最後に人影が忠告した。


「一つ言っておくことがある。永遠の命が完成しない半分の状態のままでは体に支障がでてくるだろう。だから、気をつけることだ」

「支障………? どうなるのですか………?」

「じきに分かる」

「では、どうすればいいのですか………?」

「簡単なことだ。早く見つければいいだけのことだ」

「分かりました………」


 久兵衛は、もはや不承不承そう答えるしかなかった。

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