第二十八話 人影③
「よく分かりませんが、では、あとは私は待っていればいいのですね………?」
「働きもせず果実を手に入れられると思うのか?」
「どういうことでしょうか………?」
「お前が探しに行くのだ」
「私が………?」
さらに、妙な展開になりそうだったので、久兵衛はきっぱりと言った。
「それはできません………」
「何故だ?」
「霧隠しにあうからです………」
「そんなくだらない迷信を信じているのか?」
「信じるも何も、何人もの人が御幸の森に入ったまま帰って来なくなったという話を聞いています………」
「それは霧隠しなどではい。迷ったからだ。邪魔な木々や草木をなぎ払いながら進めばどうということはない」
「そうだとしても………」
「まだ、何かあるのか?」
「足を踏み入れるのは気が引けます………」
「何故だ?」
「御幸の森はずっと禁足の場所でした。もちろん、霧隠しを恐れているというのも理由の一つですが、それだけではないとも思うのです………」
「では、他にどんないわくがあるというのだ?」
「はっきりしたことは分かりませんが、昔からそうしてきたから、きっと何か意味があるのでしょう………」
「よく分からないだと?」
人影は蔑むように言った。
「そんなことで永遠の命を棒に振るというのなら、好きにすればいい。それは、傾いた家業を立て直す好機さえも捨ててしまうことにもなるがな」
「どういうことでしょうか………?」
「御幸の森には、人間に有益な植物がある。それを使えばこの世のすべてのものを買えるだけの富も手に入れられるだろう」
「ちなみに、それはどのようなものなのでしょうか………?」
「一夜花と呼ばれている花だ。薄紫色の珍しい花なので、見つけるのは容易いだろう」
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