第二十五話 闇の時節

 さくらを診療所まで送り届けたあと、心之介は再び出かけた。


 「黒の神社」を探すためだった。


 それは夜にしか現れないと言われていた。


 そして、そのことは千年花を守ることとも直接関係していた。


 千年花は御幸の森の中にある。


 御幸の森があるから千年花が存在している。


 すなわち、御幸の森がなければ千年花は咲くことができないということでもあった。


 だから荒らされるのを止める必要があった。


 すでに「暗黒無あんこくむ」は始まっているからだ。


 暗黒無とは、葉宮家が代々口伝えに語り継いできたことだった。


 この世の一切のものが闇に包まれてしまうこと。


 御幸の森が荒らされた時節にそれは訪れる、と。


 だが、まだ食い止めることはできる………。


 心之介はそう思った。


 そのためには、とにかく、事前に芽を刈り取るしかなかった。


 黒の神社を見つけ出して、その主である「夜鳳よるどり」と呼ばれている存在を斬らなければ………。


 それが、この安来地区に戻ってくるまでの間に調べて分かったことだった。


 だから心之介は、焦る気持ちにおされながら一つの神社の前までやってきた。


 ヒビか入り、耳の欠けた狛犬。


 笠木かさぎのなくなった鳥居。


 壁が崩れ、屋根にいくつもの穴があいた拝殿。


 放置されてかなりの月日が経っているようだった。


 心之介は柱だけになっている鳥居を抜けて拝殿に近づいた。


 黒の神社は、使われなくなった神社の中に隠れているという。


 だが、実際にあるのは一つの特徴的なものだけだという話だった。


 黒い鳥居。


 心之介は慎重に廃れて傾きかけている拝殿の中を覗いてみた。


 提灯の明かりに照らされた内部は、祭事道具などが散乱しているだけだった。


 この時点までヒスイが反応しなかったこともあり、心之介の緊張が少し解けた。


 ここではないようだ………。


 心之介は引き返してまた柱だけの鳥居を通り抜け、次の神社に向かった。

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