第二十四話 使者

 安来地区で最も小さな薬種やくしゅ問屋「吉津屋よしずや」の主、久兵衛きゅうべいは、冴えない顔で台帳を見ていた。


 売上が落ちて赤字が続いている。


 このままでは廃業だった。


 だから、どうすればいいか考えた。


 創業者として何ができるのか。


 人が薬を求めるのは、病や怪我を治したいからだ。


 そうでなければ必要もない。


 つまり、人は健康でいたい。


 何故か?


 生きていたいから。


 ということは、壮健さを保てるものを作れば誰もが買い求めるのではないか?


 できる限り長く生きることのできる薬。


 さらに、久兵衛は思った。


 一代で築き上げただけに、何としても廃業だけは避けたかった。


 何代も続く家業にしたいと強く思ってここまで頑張ってきたのだから。


 子々孫々、何十年、何百年もずっと。


 それを見届けたい。


 だから、その間、生きていたい。


 ずっとずっと、 死ぬことなく。


 そう、永遠に………。


 と、久兵衛がそう思った時だった。


 障子の腰板こしいたをコツコツと叩く音がした。


 が、すぐに不審に思った。


 ここは二階だが………?


 奇妙に思いながらも久兵衛が障子を開けてみると、柵に黒い梟がとまっていた。


 はて………?


 梟は何かを嘴にくわえていた。


 文だった。


 梟は首を部屋の中に差し入れるようにしてから嘴を開き、文を久兵衛の前に落とした。


 久兵衛はそれを手に取り、開いた。


 〈永遠の命がほしければ、梟のあとについて来られたし〉  


 「………!?」


 久兵衛は驚いた。


 たった今、考えていたことが文に書かれていたからだ。


 どういうことなのだ………!?


 戸惑っている久兵衛を梟はじっと見ていたが。、やがて羽を数回はためかせると柵から飛び立った。


 そして、まるで「ついてこい」と言わんばかりに、ゆっくりと北のほうへと向かい始めた。


「………!?」


 久兵衛はどうすべきか迷ったが、オロオロしながらもやがて部屋を飛び出した。

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