第十七話 御幸の森②

 御幸の森には手つかずの自然がそのまま残っており、神聖な気が満ちていた。


 その理由は、人が立ち入らないからだ。


 何かは分からないが、触れてはならないもの、汚してはならないものが住まわる森として長きに渡って大切にされてきたのだった。


 その一方で、「もののけ」が住んでいるとも言われており、森の主である「獅子」を見たと言う者もいた。


 また、足を踏み入れたまま戻ってこない人もおり、人々はそれを「霧隠し」と呼んで森にさらわれたのだと恐れた。


 そのようなこともあって、御幸の森は様々な意味合いで人々が近づくことを畏れる「聖域」だった。


 だが、そんな聖なる森に人知れず出入りしている一族がいた。


 それが葉宮家はみやけだった。


 そして心之介も、かつてはその一人だった。


 ◇ ◇ ◇


 心之介は薄っすらと白い霧がたちこめる中、草木の生えていない道を進んだ。


 それが「お務め」の時に歩く道だった。


 新たに芽生えてきたつぼみを踏んだり触れたりすることさえ注意した。


 三本並木、幹が二つに枝分かれしている夫婦大木、枝葉がアーチ状の屋根のように広がる一本傘。


 そして、目印となる木々を見ながら歩き慣れた道を進んだ。


 何も変わっていない………。


 そう感じるほどに、森があたたかく迎え入れてくれているような気がした。

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