第十五話 赤髪のお蓮③

「ご忠告ありがとうございます」


 心之介はそう返事をしながらも、どうやら米吉も自分と同じ考えのようだと思った。


「それから、伝家の宝刀を温存し続けているのは腕に自信があるからなのだろうが、そうとばかり言っていられなくなったら迷わず使えよ。さくら医師はこの町になくてはならない人だからな」

「承知しております。重ね重ねありがとうございます」


 と、二人の間に割って入るようにお加代が聞いた。


「ねえ、親分、あっちのほうはどうなんです?」


 診療所の待ち合い室で話すネタを仕入れるためだったのだが、今の一言でヘラヘラしていた米吉の顔が一変した。


「ヤツはなかなか尻尾を見せなくてな、だが必ずお縄にしてやる、“赤髪のおれん”め、文四郎ぶんしろうたちの仇はきっちり取ってやるからな………」


 米吉は怒りをあらわにそれだけ言うと見回りに戻って行った。


 赤髪のお蓮とは、闇夜の剣客として恐れられている人斬りだった。


 心之介もその名は耳にしたことがあったが、夜にだけ現れるらしいということ以外には何も知らなかった。


 というより、お蓮のことを実際に知っている人は誰一人いないと言われていた。


 出くわしてしまった人は、必ず屍になってしまうからだった。


 そんな悪党にしてやられてばかりでは、米吉の面目にもかかわることなのだろう。


 ましてや、自分の部下まで犠牲になったのであれば、捕縛に燃えるのも無理はなかった。


 夜の往診の時に現れなければいいのだが………。


 心之介は猫背の米吉の後ろ姿を見ながらそう思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る