第十三話 赤髪のお蓮①

 お加代の長屋は戸端とばた八軒通りにあった。


 そこは、主に今日の食べ物にも困るほどに貧している人たちが暮らしていた。


 崩れかけた屋根を数本の竹で支えている戸の前まで来ると、心之介はお加代を下ろした。


 「ありがとね」


 と、その気配に気づいた長屋の住人たちが集まってきた。


 心之介はもう何度も来ていたので、誰にどれを渡せばいいのか分かっていた。


 だから、それぞれに配ると、みんな一様に薬に手を合わせて拝むようにしてから受け取った。


 そのうちの一人が涙ぐんで言った。


 「さくら先生は本当の仏さまだ。この長屋の住人は薬を買えるようなお金を持っていない。そんなワシらを助けてくれるなんて………」


 もちろん、さくらは薬を無償で提供していた。


 しかも、いくつもの長屋で同じようなことをしていた。


 さくらさんはすごい人だ………。


 心之介は改めてそう思った。


 が、その一方で、診療所のやりくりが大丈夫なのかとも心配になった。


 心之介は、さくらが診察代をもらっているところをほとんど見たことがなかったからだ。


 十二人の子どもたちも抱えていれば、それなりに実入りが必要なはずだろう。


 その足しにということで作っているはずの作物も、さっきの親子連れのように診察に来た人にあげてしまうことは多々あった。


 そのため、さくらたちは少ない食材を分けあって食べているのが現状だった。


 ところが、不思議なことに、食事や診療所のことで何かが事欠くということもなかった。


『お金は天下の回りものです』


 そして、そのことをさくらに聞くと、いつもそう答えるのだった。


 人徳があるということか………。


 心之介がそんなことを考えていると、お加代が長屋の端の一部屋の前まで行った。


 心之介もあとからついて行って中をのぞいてみると、一人の少女と一組の中年夫婦がいた。


 おみつと、親戚の藤治とうじ八重やえだった。

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