第九話 仏さま②
「この歳になればお迎えを待つだけだけど、気がかりなのはおみつちゃんのことだね………」
それから、一旦そう言ったあとで、しみじみと話を切り出した。
「本当に不憫でならないわ………おみつちゃんは助け出せたけど、母親は間に合わなくて………おみつちゃんのために作った新しい着物も一緒に燃えてしまったみたいなのよ、長屋の火事で………おみつちゃんは楽しみにしてたみたいなのに………引き取った親戚も、どうしてあげたらいいのか分からないって………それはそうだよね、やっぱり誰にも母親の代わりはできないものだから………」
よほど気にかかるのか、この頃、お加代は必ず最後におみつのことを口にするようになっていた。
さくらも何か手助けができないかと考えていたが、具体的な手立てが思いつかなかった。
ケガや病は薬や治療などでなおすことができたが、心の空白を埋める特効薬はなかったからだった。
「本当にお気の毒です………」
さくらはそれしか言えなかった。
「………」
同様に、処置室にもその話は聞こえたので、心之介は何やら思案するような表情を浮かべていた。
「今日も、ついつい長話をしてしまったようだね………」
やがて、お加代は一つゆっくりとため息をつくと、腰を叩きながら席を立った。
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