第八話 仏さま①

 診療所は、入り口のすぐ脇に待ち合い室があり、隣に診察室があった。


 その横には処置室があったが、間仕切りで見えないようになっていた。


 さらに処置室の右側を通るように奥に続く通路があった。


 十人も入れば一杯になってしまう待ち合い室はすでに満員状態だった。


 その誰もが着古し、くたびれ、ところどころ破れた着物を着ていた。


 何故なら、診療所は、安来やすぎ地区でも特に貧しい人たちが多く住むうぐいす村にあったからだ。


 そのため、住人たちは、満足な治療を受ける機会などないに等しく、具合が悪くなると近くにある金剛寺へ行ってお百度参りをするなどしていたのだった。


 だから、今では待ち合い室は、一番安らげる場所となっていた。


 そして、心之介の待機場所は処置室だった。


 そこは待ち合い室や診察室からは見えない上に、入り口を含めて診療所内全体を見渡せたので、用心棒が控えるにはピッタリの場所だった。


 その心之介の膝の前では、染五郎がフカフカの座布団の上で寝ていた。


 実は処置室はあまり使用されることがなかったので、もともと染五郎の寝床だったのだが、そこに心之介が間借りさせてもらう形になっていた。


 そして、今、さくらは、どうやら常連客の一人であるお加代かよの診察をしているようだった。


「そういうわけで、もういやになってしまって………そうそう、そう言えば、同じ長屋のお富さんが………」


 これが、いつもの光景だった。


 つまり、話し相手だった。


 さくらとお加代の会話は待ち合い室の他の常連客にも聞こえるので、「おや、今日のお加代さんは随分と長話だね」といった風になった。


 で、さくらはというと、お加代が話をしている間に、相づちをうちながら触診をして体調を確認していた。


 その結果、お加代はすこぶる健康だった。


 ところが、一通り話を終えたお加代は、ふと悲しそうな表情を浮かべた。

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