第四話 楓の葉④

「心さん、傷はすっかりよくなったみたいですね?」

「ああ、おかげさまで」


 心さん、というのがここでの心之介の呼び名だった。


「きっと、さくら先生のお陰です、とびっきり腕がいいから」


 幹太はそう言って、心之介の横で竹刀を振り始めた。


 歳は十四と聞いたが、あまり幼さは感じさせなかった。


 言動が大人びているからだろう。


 心之介は熱心に竹刀を振り続けるその姿を見ていたが、やがて、ひとしきり鍛錬を終えると幹太は言った。


「心さんにお願いがあります。僕に稽古をつけてくれませんか?」

「私は教えるほどの腕ではないから」

「さくら先生に聞きました、心さんは何人もの相手と互角に戦っていたと。僕も強くなりたいんです」


 その眼差しは一途なものだった。


 すると、そこへ峰次郎みねじろう節乃せつのがやってきた。


「おいおい幹太、心さんはまだ傷が癒えたばかりなんだぞ?」

「そうよ。無理をしたら、せっかく治ったのにまた痛みが出てくるかも知れないわ」


 同年代の二人に幹太が言い返す。


「さくら先生が治療をしたんだから、もう大丈夫なはずだ」

「そういうことじゃなくて、心さんには心さんの仕事があるっていうことだよ」

「峰次郎の言う通りよ。一番大切な仕事よ。だから邪魔しないであげて」

「分かったよ」


 幹太はそう答えると、面白くなさそうな顔で一人でまた竹刀を振り始めた。


「………」


 さくらはそんな幹太も複雑な表情で見ていた。

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