第二話 楓の葉②
シュッ!
心之介が左手だけで振り下ろした木刀が鋭く空気を切り、中庭の楓の葉についていた朝露がパッと舞った。
腕の痛みはほとんど感じなくなっていた。
もう、大丈夫なようだ………。
それを確かめると、もう一度、力を込めて振り下ろした。
さくらさんは、よほど腕がいいのかも知れない………。
改めてそう思うと、ひとまずホッとした。
これまでは右手だけでさくらをつけ狙う輩を追い払ってきたが、これからはそうもいかないだろうことは予想ができた。
診療所に用心棒がいるとなれば、襲う側もそれなりに腕の立つ者を差し向けてくるはずだからだった。
そして、影法師たち。
心之介は腰に帯びている刀の柄に手を添えた。
秘刀ヒスイ。
さくらを狙う襲撃者に対して、心之介がそれを使ったことはなかった。
「こちらの世界」で使ってはならない掟だからだった。
というより、実際、抜けなかった。
ヒスイはまるで意思があるかのように、別世界の存在だけにしか反応しないからだ。
その一つである影法師が生み出されるのが黒い霧で、それが隣町の鳥崎地区を飲み込もうとしている。
空を見上げると、半円の月が薄く見えた。
次の満月までまだ半月はあるので、左腕は問題ないだろう。
何としてもこの世界を守る………。
心之介はひそかな決意を胸に刻み、真剣な表情で素振りを続けた。
「………」
そんな心之介を、さくらが渡り廊下の柱の陰から見ていた。
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