第一章 用心棒

第一話 楓の葉①

 心之介は診療所の隣にある「うぐいすの家」に住まわせてもらうことになった。


 裏手に広い畑のあるうぐいすの家の同居者はさくらと十二人の子供たち、それと診療所の看板娘でもある猫の染五郎で、それぞれの建物は渡り廊下でつながっていた。


『そのかわり、この診療所を守っていただきたいのです』


 それが宿賃と食事代であり、さくらが心之介に秘密裏に頼んだことでもあった。


 つまり、「用心棒」だったのだが、心之介には願ってもないことだった。


 宿なし、金なし、さらには明日をも知れぬ身だったからだ。


 また、うぐいすの家では、みんな何かしら仕事を分担していて、自分が担当することはきっちりするという厳しい約束事があった。


 かつ、どんな些細なことでも、全員で話し合って決めることにしていた。


 その結果、心之介には染五郎の「お守り」をしてもらうということになった。


 というのも、料理も掃除も畑作業も、子供たちのほうが上手にできたからだ。


 とは言え、心之介には本来の仕事があったので、子供たちもそれを分かって負担のない雑務を作り出したというのが経緯だった。

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