治療③
「………」
さくらはじっとそれを見たが、やはり表情を変えずに言った。
「横になってください」
心之介がおとなしく言われた通りにすると、充分に先端の赤くなった針を一旦鉄の受け皿に置いたさくらは消毒用の酒を手にした。
「多少しみると思います」
「分かりました、いつものことですから………」
心之介はそんなことを言ったが、さくらはあえて何も聞き返さなかった。
横たわった心之介はゆっくりと息を吐き、目を閉じた。
そして、次の瞬間、肩口に激痛が走った。
傷口に酒がかけられたため、思わず心之介は顔を歪めた。
また、この痛みが続くのか………!?
何度経験したところで、苦痛に慣れることはなかった。
そんな心之介の様子を察したのか、裂けた肉の血を綿で拭き取ったさくらは針を手にながら気遣った。
「少しだけ我慢してください、すぐに終わりますから」
そう言って、本当にそうなったことは一度もなかった。
これまで心之介の治療をしたのが全てもぐりの医者だったからなのかも知れなかった。
まともな医師に支払うお金などなかったからだ。
「………!?」
また激しい痛みがきた。
心之介は目を閉じて奥歯を噛みしめ、さらなる苦痛に耐えるためにすがるように何かをつかんだ。
それは柔らく、あたたかいもので、強く握りしめると壊れてしまいそうだった。
その間にも、激痛は耐えうる痛み程度に弱まっていた。
「終わりました」
「………」
さくらがそう言っても、心之介の体は硬直したままだった。
「もう大丈夫ですよ」
「………」
優しい呼びかけにゆっくりと目を開けると、さくらが心之介の手を包んでくれていた。
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